危機感をあおるだけでは部下は育たないそのひとことを言う前に(2/2 ページ)

» 2014年12月04日 10時00分 公開
[岩淺こまき,Business Media 誠]
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危機感や劣等感を刺激するのは“リスキー”

 Aさんのケースで挙げたような、相手の存在意義を揺るがせ、「自分は不要な人材」と思わせてしまう言葉や行動は他にも、

  • 仕事の質問に対して「あぁこれ? 別に君には直接関係ないし」という返答をされた
  • 有給の相談に行ったら「問題ないよ。早く休んだら困る人になってねー」と言われた
  • 業務に関係がありそうな会議に自分が呼ばれなかった

 など、さまざまなものがあります。もしかすると、あなたの身近なところでもこうした言動があるかもしれません。

 さて、Aさんの例で上司は“もっと頑張れ!”という気持ちを伝えるために、「あなたがいなくても困らない」とAさんの危機感を刺激しました。この方法自体は悪くないのですが、これで相手がやる気になるには2つの条件があります。1つは「Aさんが相応の自信を持っていること」、もう1つは「上司に対して十分な尊敬や信頼があること」です。

 自分の仕事に今ひとつ自信が持てず、着任したばかりの上司に対しても信頼関係が築けていなかったこと。それが原因で、上司の激励は失敗に終わったと言えます。劣等感を刺激する言葉も同じで、「彼と比べて君は……」といった一言は、相手のモチベーションを上げるメリットよりもリスクが大きいでしょう。

photo 相手の危機感や劣等感を刺激するのは、相手のモチベーションを上げるメリットよりもリスクが大きい

“理想”や“未来”を伝えて相手を動かす

 こうした言葉よりもリスクが少なく、効果が出やすいものとしては「理想的な行動を伝え、未来をイメージさせる」という方法があります。

 端的に言うと“ここはできている。よりよくなるためにどうするか、どう期待しているか”という点を伝えることを徹底するのです。まず、「ここはできている」と相手の存在や能力を“認める”ことで、相手に安心感を与えると同時にやる気を高めます。その上で理想へと導くようなアドバイスをすればいいのです。Aさんのケースでは、次のように上司が対応するとAさんの反応が違ったかもしれません。

上司: え? 成長できるいいチャンスじゃん。家庭の状況なんて、みんないろいろあるもんだよ。僕も子ども2人もいるし。介護の問題を抱えている人もいる。

Aさん: それはそうですが……。

上司: ちなみにAさんは、どのあたりに不安がある?

(Aさんの状況を聞く)

上司: 残業と急な保育園のお迎え対応、自分の体調に不安があるのか。残業なしというわけにはいかないけど、X社に対してはベテランのBさんをアドバイザにつけて調整しようかと思うけどどうかな。

Aさん: はい……。

上司: それでさAさん。前のマネージャーに聞いたら、顧客のニーズを掘り起こすのが得意なんだってね。X社でもそういうところで力を出してほしいと思ってる。X社は合併していろんなニーズが埋もれてるだろうから。大変になる部分もあるけど、まずはやってみて、厳しかったら都度調整していくからさ。

Aさん: 少しがんばれる気がしてきました。また相談させてもらってよいですか?

上司: もちろん。状況変わったらいつでも言ってね。

 このように、相手の未来を刺激する言葉は、言葉をかけられた相手の頭の中にしっかりと刻み込まれ、ときに行動をサポートし、ときに勇気づけます。叱咤激励が通じないと感じたら、こういうアプローチを試してみてはいかがでしょう。

今回のまとめ

Q:部下を叱咤激励しているのですが、なかなか応えてもらえません。

A:相手の劣等感や危機感を必要以上にあおっていませんか。相手に理想的な行動を伝え、未来をイメージさせる言葉を使う方が効果的な場面も多いです。


著者プロフィール:岩淺こまき

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 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/ヒューマン・スキル講師

 大手システム販売会社にて販売促進、大手IT系人材紹介会社にて人材育成、通信キャリアでの障害対応、メーカーでのマーケティングに従事。さまざまな立場でさまざまな人と仕事をし、「ヒューマン・スキルに長けている人間は得をする」と気づく。提供する側にまわりたいと、2007年より現職。IT業界を中心に、コミュニケーション・ファシリテーション・リーダーシップ、フォロワーシップ、OJT、講師養成など、年間100日以上の登壇及び、コース開発を行っている。日経BP「ITpro」で、マナーに関するクイズ形式のコラムを連載中。


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