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新卒一括採用、今後の行く末は?就活ルール見直し(3/4 ページ)

» 2018年11月16日 06時30分 公開
[清水仁志ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

学業を頑張った人が報われる環境

 採用活動の早期化が進む背景には、企業は優秀な人材を確保するために、他企業に先行して学生と接触したいという思いがある。それが、ルールの範囲内であればよいが、水面下でルールを逸脱している場合も多い。そうした企業に遅れをとってはいけないと、他の企業も採用時期を早めるという負の連鎖が発生している。

 採用活動を開始する時期が早まることで、企業は学生の学業成就を待たずして選考を迫られ、学業以外の要素で学生を判断せざるを得なくなる。

 また、日本の正社員は終身雇用であるため、特定の分野で突出したスキルを持つよりも、どこにいってもうまくやっていくスキルが比較的重視される傾向がある。そのため、日本の企業はポテンシャル採用していると言われ、その判断要素としてコミュニケーション能力、主体性、チャレンジ精神などが重視されている(図表2)。これらの要素の多くは、大学での学業を通じて身につけるには非効率的であり、結果として、一部の専門的職業を除き、大学生は学業に一生懸命取り組んでも就職に有利にはたらきにくい構造になっているのかもしれない。

(図表2)選考にあたって特に重視した点(5つ選択) (図表2)選考にあたって特に重視した点(5つ選択)

 日本の大学生は平均的に勉強をあまりしないと指摘されている。欧米と比べ大学を卒業するために勉強がそれほど必要ないということに加え、図表2のように採用決定に際し、学業が必ずしも重視されていないことが原因だと考えられる。つまり、就職するにあたり、大学は学業を通じて成長するところではなく、入学するところとなってしまっている。

 それは、選考の早期化が進んでいる中で、企業が本来重視すべき学業成績が選考の段階で分からないため、どれだけ優秀な学業成績を収めたかという中身ではなく、どこの大学に入ったかという看板でしか判断できないということが背景にある。

 こうした実情を踏まえて、中西経団連会長は「学生がしっかり勉強し、企業がそうした学生をきちんと評価し、採用することが重要である」と企業が採用にあたり学業を重視してこなかったことへの反省を述べている。

 学生に配慮し、財界が就職活動の期間を短くしただけでは、大学生が学業へ専念するとは限らない。

 現在の形式的な採用要件となっている大学の卒業について見直し、学業と採用を一体とさせることが必要だろう。

 まず大学は、在学中の学業成績をこれまで以上に厳格に卒業にリンクさせ、学業成績を客観的な評価として示すことが求められる。また、企業側が採用時に重視する学業以外のスキル伸長のために、欧米のようなディスカッション形式の授業や、単位認定を認めるインターンシップ、産学連携の強化等を進めるべきだろう。

 一方で社会の一員たる企業側もCSR(※3)の観点から、企業間での人材獲得競争による学生の青田買いを見直し、学業成績を重視する採用にシフトしていくべきであろう。既に一部の企業では、明確に大学での学業の成果に重点を置いた採用を行なっているところも存在している。

 大学での学業を通じて学生の成長が促されるならば、企業は採用の際によりその成果を重視することとなり、単に採用活動の早期化には向かわないはずだ。重要なことは、企業・大学が一体となり、学業を頑張った人が報われる環境を作りだし、その結果、大学での成長が促されることだ。

※2 中小企業庁「中小企業の企業数・事業所数」

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