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“冬の時代”から始まった平成アニメ、いかに2兆円産業に飛躍したかジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(5/5 ページ)

» 2019年03月14日 06時30分 公開
[数土直志ITmedia]
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多様化するアニメのビジネスモデル

 それでは平成の次の時代も、日本アニメはさらに成長するのだろうか?

 実は今、アニメビジネスはまた大きく変わり始めており、確かな未来が見通せない。一つは深夜アニメのビジネスモデルが揺らいでいる点だ。今やアニメ製作の半分以上を占める深夜アニメを支えている映像ソフトの売り上げが、2014年より右肩下がりを続けている。

 理由として挙げられるのが、動画配信の普及やファンの消費嗜好の変化だ。代わって伸びているのが、動画配信視聴、スマホアプリゲームへの展開、声優・アニメ音楽、イベント・舞台といった周辺ビジネスである。アニメビジネスは映像ソフト以外で拡大中だが、あくまで映像ソフトをビジネスの中心としてきた製作委員会システムとは必ずしも合わない。

 昨今は全ての資金を1社で負担し、権利も1企業にまとめることで製作委員会を使わない作品が見られるようになってきた。勢いを増す映像配信プラットフォーム会社が製作委員会を使わずに制作スタジオと直接取引する動きもある。

 さらにアニメのヒット作も、06年の『涼宮ハルヒの憂鬱』などを皮切りに、TV放送というよりも、ネットやファンコミニケーションを通じて成功するパターンが増えている。ファン向け作品を深夜アニメとして放送するのが一番効果的かどうかの判断も、今後は問われそうだ。

 最近のアニメ人気を、一般層へのアニメ浸透で説明することも多い。『君の名は。』や映画『名探偵コナン』の大ヒットなどだ。しかし製作委員会が多様化やニッチ市場の中で発展したのなら、製作委員会は実はこうした一般向け作品とは必ずしもマッチするわけでない。

 今後も製作委員会が無くなることはないだろう。しかし平成の次の時代は、アニメ制作の資金調達とビジネスの仕組みがより多角化して、新たな時代に突入するはずだ。

 一方で、海外の重要性はさらに増す。国内の人口が減少している状況で、既に飽和気味な国内のアニメビジネスがさらに成長するには限界がある。

 平成アニメビスネスの拡大は、「製作委員会」と「海外展開」の歴史でもあった。平成が終わる今、アニメビジネスにおけるこの2つの位置付けは対照的だ。

 しかし平成元年に今のアニメの状況を誰も想像できなかったように、平成の次の時代を確かに占うことは誰もできない。想像できないような変化を続けることで、アニメはビジネスとしてきっと生き残っていくに違いない。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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