働き方改革プロジェクトのキックオフから2カ月が経過した。
この間、日野下と経営企画部員は、竹中らコンサルタントとともに各機能の検討会に参加し、さまざまな部門の課長、リーダークラスと議論を続けてきた。小田社長が見抜いていた通り、この層は実業務の指揮を執っているだけに、常々問題意識を持っており、この機会とばかりにアイデアを上げてくる者も少なくなかった。日野下たちは、そうした前向きなメンバーにも助けられて少しずつ施策を積み上げていった。
また、防御姿勢だった役員、部長たちとは個別に面談し、協力を取り付けるべく努力を重ねてきたのだった。
ステアリングコミッティでは、芝田取締役、仁和役員から「アイデアは理解できるがそこまで効果が出るのか、本当に実行可能かは疑問」という慎重なコメントがあったものの、各部門とも2桁に乗せる成果を見出しており、部門横断的なテーマや抜本的な社内ルール見直し施策も上がり始めていた。
ここはX製作所社員御用達の居酒屋・天下布武。日野下は、再び同期たちと向き合っていた。
日野下: とりあえず2カ月が経過したが、どういう印象を持ってる?
最初に口を開いたのは加藤人事課長だ。
加藤: 最初は正直不安だったんだが、社長にあそこまで宣言されたら真剣にならざるを得ないしな。ただビジョンを示されるだけではなくて、経営企画やコンサルタントという第三者が入ってくれたことで徐々にブレークスルーできたんだろうな。
武闘派の経理課長、福島が続く。
福島: うちも同じだ。最初は現状業務の中で「自動化できる部分」を探していたんだが、そのうちに、「いっそのことやめてしまえば」とか、「もっと割り切って社内ルールを変えればより自動化できる」とか、業務そのものを見直すところまでいけるようになってきた。RPA(Robotic Process Automation)による自動化ではなく、RPAも活用した業務改革なんだと実感している。
日野下: 正直、リーダークラスの本音はどうなんだろう? やはり不安なんだろうか。
加藤: 自分の仕事がなくなるのでは、なんていう不安はないよ。この層には。むしろやる気になっているよ。もともとやりたいこと、考えたいことはあったのに作業に追われて手が回っていなかったという意識が強い。「これでやっと頭脳労働者になれる」って言ってるぞ。財経はどうだ?
福島: 同じだよ。事業部門からの問い合わせ対応、伝票のチェックや差し戻し、入金消込の確認や出金の承認などに追われているが、作業でなく社内プロセスや制度の設計をやらせたいし、財務戦略の立案・実行力も高めていきたい。
日野下: 堀尾人事部長は、当初だいぶネガティブな印象だったが……。
加藤: それが、リーダーや俺にこの際だから思い切って考えてきたことを全部上げましょうって迫られて、だいぶ変わってきたんだ。今は20〜30%の余力をだすことにもコミットしているし、横断的なアイデアは部長会で決めるからどんどん出せって感じになっている。
ただ、“鬼芝田”(取締役人事担当)はまだ腹落ちはしていないぞ。人事が主導で進めてきた改革が否定されたかのような気がしているのかもしれない。余力が出たとしても異動させるのは事実上不可能ではないか、そもそも人事はギリギリの布陣だったんだとか、こないだのステコミでもまだ言ってたな。
もっとも、部長以下リーダーまで一体感がでてきたので、ちょっと柔らかくはなってきている。「俺は昔から改革は必要だって主張してたんだ」とか言い始めてるからな(笑)。
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