#SHIFT

フィリピンで綱渡り人生 借金500万円から逃れた「脱出老人」の末路「幸せは金じゃない」(5/5 ページ)

» 2019年05月22日 05時00分 公開
[水谷竹秀ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

流転

 吉岡さんはそれ以来、合鴨の卵を拾い集める仕事、土木、幼児服のアイロン掛けなど仕事を転々とし、現在の妻、ロナさんと出会った。不法滞在に置かれているため、日系企業への就職は望めない。ゆえにローカルの職場を渡り歩くしかなかった。

 日本人男性とフィリピン人女性の「年の差婚」は珍しくないが、それは日本人に経済力があっての話だ。ところが吉岡さんは、フィリピンの最低賃金で働き、地べたに這いつくばるような生活を送っていた。

 そんな吉岡さんと一緒になった理由について、ロナさんはこう口にした。

  「見た目は怖かったけど言葉ができるので、直(じき)に優しい人だというのが分かったの。よく冗談も言ってくれた。年齢差は特に気にならなかったわ。彼はよく世話をやいてくれる上、自分の話にきちんと耳を傾けてくれるの。逆に彼も自分の話をするし、彼といると楽しいわ」

 フィリピンの在留邦人社会で長らく取材を続けてきた私にとって、「中高年の日本人男性と若いフィリピン人女性の関係=お金」という従来の方程式を根底から覆されるような、「事件」と言ってもいいほどの2人の関係だった。

 そうして息子が生まれ、病気にかかって医療費の工面に手間取ったこともあったが、何とか一家3人で生き延びてきた。ただ、生活に浮き沈みが激しいため、突如として厳しい現実が突き付けられることも少なくない。ロナさんが病気になった時も、高額な医療費の支払いができず、友人、知人の間を走り回って金策した。

 仕事も幼児服のアイロン掛けから、工場で空き瓶を洗浄する仕事、農業などと次から次へと変わり、ドキュメンタリー番組の取材時には鶏の運送業に。最後のロケは昨年末だったが、それから半年近くが経過した最近になってまた、吉岡さんから次のような連絡が入った。

 「会社のボスと喧嘩(けんか)をしてしまい、一緒に働いていたロナとともに仕事を辞めました。現在、2人で就活中です。私にはタガログ語の翻訳の仕事があるようなので、待機しています。まあフィリピンのことなので、あまりあてにはしていませんが」

 吉岡さんのフィリピン綱渡り人生は、これからも続く。

phot まだ小さかった息子を寝室であやす吉岡夫妻

 吉岡さんを取材したドキュメンタリー番組「黄昏れてフィリピン〜借金から逃れた脱出老人〜」は5月26日午後1時40分から、フジテレビのザ・ノンフィクションで放送される予定だ。原作は『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』(小学館文庫)。

phot 5月26日午後1時40分から放送する(フジテレビのWebサイトより)

著者プロフィール

水谷竹秀(みずたに・たけひで)

ノンフィクションライター。1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業。カメラマンや新聞記者を経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で第9回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著書に『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』(小学館)、『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社)。


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.