大学を卒業した任正非は、人民解放軍の基建工程兵部隊(インフラ建設部隊)に配属される。工場や戦闘機格納庫、試験施設など数十もの軍関連施設の建設に携わったという。任の同僚や部下は次々と勲章を受章したが、大卒のリーダーである任だけは何も与えられなかった。ここでも父親の経歴が影を落としたのだ。
風向きが変わったのは76年、毛沢東が死去し文革を主導した四人組が失脚した後だ。任は突然、複数の勲章を得た。文化大革命期に与えられなかった勲章が一気に授与されたのだ。78年3月には北京市・人民大会堂で開催された全国科学大会に招かれた。父の名誉も回復し、任も共産党への入党が許された。
ようやく人生が上向いたかと思いきや、そううまくは行かなかった。兵員削減改革によって、任が所属する基建工程兵部隊が消滅してしまったのだ。所属する幹部、兵士たちは各地の政府機関や国有企業に転属することとなった。
ちなみに近年、中国では退役軍人によるデモが頻発しているが、その多くがこうした復員軍人幹部(転属軍人幹部)によるものだ。軍役を全うした場合と同等の待遇を与えると約束されていたが、転属先の国有企業が潰れたり、業績が傾いたりしたことで待遇が悪化してしまった。国に救済して欲しいという訴えである。
あるいは任もこうしたデモ隊の参加者になっていても不思議ではなかったかもしれない。82年、広東省深セン市の大型国有企業・南油集団旗下の電子機器メーカーに配属され、副総経理という要職についたが、初めての取引で騙(だま)され、200万元(約2億6300万円)以上もの支払いが回収できなくなった。さすがにこれだけのミスを犯しては、会社にいられない。一発でクビである。
任は「まだ商品経済に慣れていなかった」と軍人から企業人になる難しさを話している。ともあれ人民大会堂での表彰という栄光からわずか4年で、任は解雇されて無職の身に転落する。
広東省深セン市のファーウェイ・キャンパス。池にはオーストラリアから取り寄せたブラック・スワン。滅多に起きないが、発生すれば壊滅的な被害をもたらす事象をブラック・スワンと呼ぶ。キャンパス内にこの鳥を放すことによっていつか起こるであろう危機を意識してきた。2018年4月、筆者撮影。
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