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» 2019年09月24日 08時00分 公開

マザーハウス社長の山口絵理子が語る経営哲学――対立を越えて「よりよい解」を生み出す「サードウェイ」とは (3/5)

[後藤祥子,ITmedia]

「大量生産」と「手仕事」の“いいとこ取り”をしてみると

 このバングラデシュでもう一つ、私は二つの相対するものに出会いました。それは、「大量生産のものづくり」と「手仕事やフェアトレードといわれるものづくり」。この二つの場所でも、それぞれすごく異なる考え方の人たちが働いていると思いました。

 これは、バングラデシュで初めて見た途上国の工場で、ジュートと呼ばれる麻のコーヒー豆の袋を大量に作っています。この袋の値段は75セントくらいでとにかく安い。そして、この工場が掲げているスローガンは、「ネクストチャイナを目指せ」というものでした。

Photo バングラデシュのジュート工場の様子

 中国よりも安く――そのためにわれわれは、豊富な労働力を持ってますよ、ということで、現在、バングラデシュはファストファッションの聖地として、お買い得な洋服を量産するための拠点になっています。

 中国の人件費が高くなったから、バイヤーの方々が「安さ」をめがけてバングラディッシュにやってきます。その期待に応えようとして雇用が生まれているのが、バングラデシュの現実なのです。ミャンマーやベトナムに負けないよう、バングラデシュは価格競争力で戦っていこう、というわけです。

 一方で、バングラデシュには手仕事やフェアトレードもたくさんあります。生産者たちが笑顔で商品をつくっていて、それは素晴らしいことなのですが、つくっているものがお客さんを笑顔にするかというと、何かそうではないような感じがしたんです。「1000円くらいだったらみんなのために買ってみようかな」という“お土産レベル”にとどまっている。

Photo バングラデシュの手仕事の風景

 バングラデシュの仕事は農業と製造業がほとんどを占めています。その中において、その国で生きる人にとって重要な「経済的な自立」につながるのはどんな産業なんだろう――といったことを、私はずっと日記に書きためていて、現場に行ってみんなと話すことに長い月日を使いました。そこから見えてきたのが、25歳の時にスケッチブックに書いたこの言葉なんです。

「原材料ではなく、付加価値のある商品を。“かわいそう”だからではなく、“かわいい、かっこいい」ものをつくれればいいじゃないか」

 シンプルなんですけど、私の中では現場を行き来しながら見つけた、自分らしいコンセプトだなと思っています。

 つまり、大量生産の現場で「人が機械よりも安く働いている現状」がある一方で、手仕事やフェアトレードモデルが、「必ずしも顧客の満足にはつながっていない」という現状がある。この2つの軸の間で、「どうしたらいいんだろう」と考えていたときに、途上国から世界に通用するブランドをつくるというコンセプトの「マザーハウス」という形が浮かんできたんです。これこそがサードウェイの考えに立脚していると思っています。

 マザーハウスを立ち上げてから、「社会性」と「ビジネス」を両立させているね、といわれることが多々ありますが、そもそもその背景には「この2つではちょっと腑に落ちなかった自分」がいるんです。この2つでは満足しきれない答えを生み出そうという感覚が、マザーハウスにつながっています。

 重要なのは、この2つを批判するのではなく、この2つから「いい部分を盗んでしまおう」という姿勢なのだと思います。実際、私は大量生産モデルから、たくさんいい部分を盗んでいますし、それは実際に、マザーハウスの工場にも生かされています。

 途上国から世界に通用するブランドをつくろう――ということで、現在、バングラデシュの自社工場では250人のスタッフが笑顔で頑張っています。この工場、実はほとんどが手作りです。250人で毎月、1万個のバッグをつくっている。それは「手仕事」というフィールドの作り方だったら、なかなか到達できない数でしょう。

 なぜ、これができているかというと、大量生産工場のオペレーションで工場を動かしているからです。例えば、「非常に効率的な素材管理の方法」や「非常に効率的なリーダー育成法」「評価の仕組み」といった大量生産工場の「良い部分」を“手仕事を生かすために”使ってみようよ、という発想でこの工場を作っているんです。

 原点としては、工場のライン生産では、のりを付ける人はずっとのりを付ける、縫製する人はずっと縫製をする――という流れになっており、そのおかげで効率的にものを生産できるんです。

 大量生産のモデルは、ほとんどがライン生産なんですけれど、私が工場を作ろうとしたときに考えたのは、「ずっとのり付けをし続ける仕事なんて、ぜったいにつまらない」ということでした。「人を育てる」という意味においては、「自分一人で1つのバッグをつくれる職人」を何人も育てることが、「ものづくりの先にある、人をつくること」につながっていくんじゃないかなと思ったから、私たちの工場はテーブル生産をしているんです。

 私たちの工場では、作業は13個のテーブルに分かれて行っていて、13人のテーブルリーダーがいます。これはユニット生産と呼ばれる方法なのですが、この方法だと作業する人の中に「僕はバックパックをつくるテーブルだぞ」という風な主体性やオーナーシップが生まれるんです。

 不良品が出たときにも、この工場で発生した――と、トレースできる仕組みになっているので、責任感も養われます。こうすることで、みんながテーブルリーダーになることを夢見て、ユニット工場で働くようになるんです。この仕組みも、「大量生産」と「手仕事」をかけ算してできた仕掛けですね。バングラデシュでは、こんなふうにしてバッグをつくっています。

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