ラグビーW杯の成功で見えた「武道ツーリズム」のポテンシャルスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2019年10月23日 08時15分 公開
[窪田順生ITmedia]
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後世の人に伝えるべき国の文化

 実はこれこそが、我々日本人が国を挙げて「武道ツーリズム」を推進する最大のメリットなのだ。

 タイを訪れる外国人観光客の多くが街中に点在するリングでムエタイの試合を観戦する。ハワイを訪れた人ならば分かるが、ワイキキでは毎日のようにフラダンスショーが行われている。両方とも「見世物」と言ってしまうことは簡単だが、そのように観光資源にしたことで、「タイと言えばムエタイ」「ハワイと言えばフラダンス」というブランディングができてカネを生み、 産業となっていることで、新たな担い手を呼び込んでいるという側面もある。「伝統文化を観光に」というのは一見すると伝統文化を破壊しているように見えるものだが、結果としてその伝統文化を守ることになる。

 日本の武道もこれはピタッと当てはまる。最初は「見世物」になるのは抵抗があるかもしれないが、それによって「食える」ことになれば当然、武道の担い手は増えていく。結果として、武道を守り、武道の裾野を広げ、武道の発展につながっていくのだ。

 武道だけではないが、日本では伝統文化は国が責任を持って守るのが当然という考えが根強い。しかし、残念ながらこれからの日本はガクンと人口が減るので、税収もガクンと減っていく。つまり、衰退していく伝統文化を税金だけで守ることは不可能になっていくのだ。だからこそ、「観光」という産業化が必要なのだ。

 先日、五輪の目玉であるマラソンの会場を札幌に変更する話がポッと出て大騒ぎになっているように、W杯やオリンピックといったイベント依存型の観光立国は、自然災害や気候の問題がある日本にはかなりリスキーだ。そのような不安要素に左右されることのない観光大国に日本が成長するには、唯一無二のキラーコンテンツを世界に示していく必要がある。

 東京2020に暗雲が漂う今だからこそ、多くの国の人々が「見たい」と願っている「武道」という切り札を出す時期なのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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