クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

自動車メーカーにとっての安全性と、ボルボ池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2019年12月16日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

 自動車メーカーの安全に対するスタンスは、大別して3つあると筆者は思っている。代表的なメーカーでいえば、1つ目が米テスラ、2つ目が独ダイムラーやBMW、そして3つ目が日本の自動車メーカーだ。

 1つ目は、技術の進歩最優先派だ。特に自動運転の領域などで、ベータ版技術であってもどんどん採用し、未来的なスタンスを強調する会社。テスラは、ファンの人たちから見れば、臆せずにリスクテイクをして、技術の進歩に貢献しているということになるが、懐疑派から見れば、ユーザーを実験台にしているように見える。

 こういうスタンスからみたら、法律は進歩を阻害する旧態依然としたルールだし、そんなものに拘泥して技術が進歩しないことは悪である。

ボルボの安全技術のナンバー2を勤めるヤン・イヴァーソン氏が来日し、ボルボの考え方を話した

ソフトウェアアップデートについて知っておくべきこと

 例えば、ソフトウェアアップデートは今日の世論としてポジティブに受け取られているが、法律の側に立っていえば本当はそんなに簡単な話ではない。自動車という製品は人命を危険にさらす可能性が高い商品なので、監督官庁が審査をして販売の可否を慎重に決めている。

 なので本当は、審査を受けて販売が認められたクルマを、後でメーカーが勝手に「改良しました」と簡単にアップデートしてはいけない。それは審査を経ていないプログラムだからだ。パソコンだってメジャーなアップデートの後にトラブルが発生することは頻繁にある。もちろんパソコンであれば、不具合があっても命に関わらないが、クルマはそうはいかないのだ。仮に機能をアップデートしたソフトウェアを搭載するのであれば、本来は新しい型式認定を受けなければならない。

 つまり、すでに型式認定を取得したクルマは、当局の行政指導によって、不具合の改修(リコール)もしくはそれに準ずるケースを除いて、新機能の追加や制御の変更はしてはならないことになっている。特に昨今、日本のメーカーがソフトウェアアップデートを適用しないことを「ユーザーサービスの軽視」と捉える向きがあるが、少なくとも国内に関しては、ルールとして本当はできないということは理解しておくべきだと思う。

 法律による禁止ではなく、あくまでも行政指導という点を突いた形で、テスラはアップデートを続けているが、日本のメーカーはこれをダブルスタンダードと見て、行政の判断を観察しているところだ。許されるということならば、同様の手を打ってくるだろう。

 もちろん日本全体で見たとき、慎重を期するあまり、一度販売されたクルマがアップデートを受けられないということには賛否両論があるし、部分的には筆者も同意する部分もある。技術的に可能であっても進歩させてはならないというルールは、100%合理的だとはいえない。

 ただし、ルールにはルールが課せられた理由があり、それについて深い理解をしようとせずに、安易に無視する姿勢は、既知の失敗を繰り返す原因になる。本来、アップデートを可能にする新たな安全ルールを議論し、制度を刷新しながらやっていくべきではないか? そこは日本がこれからも技術先進国であるために変えていくべき部分でもあると思う。

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