厳しいことを言うが、「パワハラに該当しないと考えられる例こそ、パワハラ加害者の言い訳だ!」といった批判にエネルギーを割くくらいであれば、そもそも「パワハラ防止法」などという法律を設ける必要があること自体を問題視し、根本的な原因から解決すべきではなかろうか。
「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメント対策に関する労使ヒアリング調査」(独立行政法人労働政策研究・研究機構)によると、パワハラが起こる背景や原因にはさまざまな要素が絡み合っており、中でも「過重労働とストレス」「職場のコミュニケーション不足」「管理職の余裕のなさや教育不足、マネジメント能力不足」「成果主義や業績向上圧力」などの影響が大きいとされている。確かにこれらの点は、仕事柄労働環境が劣悪な「ブラック企業」の現場をよく知る筆者にとっては深く納得できることばかりだ。
これは、ハラスメントとは無縁な「雰囲気の良い会社」との比較で考えると分かりやすい。そういった組織はおしなべて業績が好調であり、そのため従業員のマインドにも余裕が生まれ、コンプライアンス意識を高めることにもお金を使えるし、無理な働かせ方をせずとも十分な報酬を用意できることから、必然的にコミュニケーション力やマネジメント力にも優れた人材が集まる、という好循環が生まれているのだ。当然ながら優れた上司であれば、自らの成功体験をロジカルに説明して部下に再現させることが可能なため、暴言や脅迫などのハラスメント的手法に頼らずともマネジメントを遂行できる。もちろん、パワハラなどとは一切無縁だ。
一方でパワハラがまん延している企業の多くは、もうかっていないが故に低賃金で目標ばかりが高くなり、従業員に心の余裕がなく、当然コンプライアンス対応は後回しだ。そうなるとまともな人材は採用できず、営業成績を上げただけで自動的に上司となり、部下を動かすにもパワハラ的な言動しかできない……という悪循環となってしまうのだ。パワハラが発生する原因は多々あるが、その一つは「もうかるビジネスを営めず、コンプライアンス確保までの余裕が持てない経営者とマネジメントの問題」といえるだろう。
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