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オフィスのソーシャルディスタンスを確保するには? ウィズコロナで活用進むHR Tech社員の健康管理も(4/4 ページ)

» 2020年09月14日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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 例えば3月19日、国連と米州人権委員会、メディアの自由に関するOSCE代表が共同で、テクノロジーを使用した感染者の把握・行動抑制に関して次のような声明を発表している。

 「私たちは新型コロナウイルスの広がりを追跡するために、監視技術のツールが使用されていることを認識している。パンデミックに立ち向かうための積極的な努力の必要性を理解し、支持するが、そのようなツールは目的と時間の両方の面で使用が制限され、プライバシー、差別の回避、ジャーナリストの情報源の保護、その他の自由に対する個人の権利が保護されることも非常に重要となる。国はまた、患者の個人情報を保護しなければならない。このような技術のいかなる使用も、最も厳格な保護を順守し、国際的な人権基準に合致する国内法に基づいてのみ利用可能であることを強く求める」

 これは企業内ではなく、社会一般での政策を念頭に置いた声明だが、一企業が新型コロナウイルス対策で情報収集する際にも同様の配慮が必要だろう。他の企業も導入しているからといった単純な理由で、プライバシーや人権に関する検討を省略してHR Techが採用されるといったことはあってはならない。

 とはいえ興味深いことに、これらの管理ツールを巡っては、従業員の側に一定の理解が生まれているようだ。

 HR Techサービスベンダーのクロノスがスポンサーとして実施したものではあるが、8月に発表されたアンケート調査結果によれば、回答者(企業の従業員)の約半数(世界全体で48%、米国で50%)が、雇用主が従業員のスケジュールに関する記録をトラッキングし、職場でウイルス感染者が出た場合には接触者を特定するなど、感染防止に向けた取り組みを行うことについて、「非常に」あるいは「かなりの程度」賛成だと答えている。雇用主による接触者の追跡に対して、全く賛成しないと回答したのは、世界全体で14パーセントだけだった。プライバシー侵害の懸念よりも、感染リスクに対する不安の方が上回っているわけである。

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 この傾向がどこまで続くかは分からない。新型コロナウイルスの新規感染者数が減少してくれば、情報収集やトラッキングに対して、反発を覚える従業員も増えてくるだろう。従って関連システムを導入して一件落着ではなく、その後も運用方法やリスク管理、コンプライアンス対応などにおいて、継続的な検討が求められている。その結果、リモートワーク制度においても起きているように、一度導入したシステムや制度を「流行が落ち着いてきたし、面倒だから」という理由で止めてしまう企業も出てくる可能性がある。

 人間は変化を嫌う生き物だ。特に日本社会では、良くも悪くも伝統や前例が重んじられる傾向があり、新しいテクノロジーの導入は抵抗を受けることが多い。しかし危機にひんしたとき、これまでになかった手法を試してみることは、比較的受け入れられやすい。第二次世界大戦中、英国のウィンストン・チャーチル首相は「この危機を無駄にするな」と述べたという。誤解を恐れずに言えば、今回のパンデミックもより良い世界を構築する「チャンス」だと捉える日本企業が増え、HR Techの導入がさらに進むことを期待したい。

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