70歳定年「歓迎できない」過半数、その理由は?背景と今後の課題(1/2 ページ)

» 2020年12月24日 08時00分 公開
[ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

本記事は、ニッセイ基礎研究所「70歳雇用推進の背景と今後の課題−企業や個人の状況に合わせたより多様な定年制度の実施を−」(2020年12月8日掲載、著者:生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金明中)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


要旨

 1970年代までには55歳が一般的だった日本の定年年齢は、平均寿命の上昇や出生数の減少による労働力不足等の影響によって、継続的に引き上げられてきた。2020年3月31日には希望する人が70歳まで働けるよう、企業に就業機会確保の努力義務を課すことを柱とした高年齢者雇用安定法の改正案が、参院本会議で自民党などの賛成多数により可決、成立した。

 現行法では、定年を65歳未満に定めている事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、(1)定年制の廃止、(2)65歳までの定年の引き上げ、(3)65歳までの継続雇用制度(再雇用制度)の導入のうち、いずれかの措置を実施することが義務付けられている。今回の改正案では、(2)や(3)の年齢を70歳までに引き上げた。さらに、企業が上記の3つの選択肢に加えて、社外でも就労機会が得られるように、(4)起業やフリーランスを希望する人への業務委託(請負)、(5)有償ボランティアなど自社が関わる社会貢献事業に従事という選択肢も追加した。

 政府が70歳雇用を推進する主な理由としては(1)労働力不足の問題の解決と、(2)社会保障の持続可能性の強化が挙げられる。

 今後、人口減少が進む中で経済成長を維持していくためには、高齢者がより活躍できる環境整備が求められる。高齢者の働くインセンティブを引き上げるためにも、年齢を理由に高齢者が労働市場で差別されないように制度や企業の意識を改善することが重要であり、そのためにも2020年4月から段階的に実施されている「同一労働同一賃金の原則」が高齢者にも適用される必要がある。

 高齢者定年延長にあたっては、個人差はあるが、視力や聴力など身体的な老化も顕著になってくることから、より多くの職種・職務の選択肢を考えていくことが望ましい。その一環として、50代前半から、個々の従業員が60代の働き方を考えて方向を定めそこに向かって準備することを支援する制度の実施が求められる。また、企業はテレワークや短時間勤務など多様な働き方に対する人事管理および人事評価制度の一層の整備を推進する必要がある。

 今回、新型コロナウイルスの影響で日本企業に普及したテレワークをより積極的に活用し、女性や高年齢者等、より多様な人材が活躍できるようにすることが望ましい。また、全ての企業や個人に一律的に適用される定年制度だけでなく、企業や個人の状況に合わせた選択定年制等、さまざまな定年制度の実施を推進することが重要であるだろう。

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