特定の部署のみテレワーク許可、法的な問題はある? 弁護士が解説Q&Aと解説(2/2 ページ)

» 2021年01月26日 07時00分 公開
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4.テレワークの導入の限定が不合理とされる例について

 他方で、法的に問題となる可能性があるテレワークの対象部署の選定方法としては、有期雇用契約者(雇用契約の期間を一定期間に限定して雇用されている従業員)や短時間労働者(通常の社員よりも勤務時間が短い従業員)が多いという理由でその部署をテレワークの導入対象から除外するといったものがあげられます。

 働き方改革関連法の1つとして、令和2年4月1日より、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)が施行されました。同法8条においては、無期雇用契約者と短時間労働者と有期雇用契約者の労働条件について、不合理な格差を設けることを禁止しています。簡潔にいうと、同じ仕事をしている従業員については、雇用契約の内容が期間の定めの無い従業員か期間の定めのある従業員・労働時間が短い従業員であるか否かで、労働条件について、根拠のない区別をしてはならないというルールです。

 このルールの基本的な指針については、厚生労働省より、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(通称、「同一労働同一賃金ガイドライン・平成30年厚生労働省告示430号)として公表されています。このガイドラインにおいても、「安全管理に関する措置及び給付」の項目において、「通常の労働者と同一の業務環境に置かれている短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の安全管理に関する措置及び給付をしなければならない」とされています。

 これを新型コロナウイルス感染症対策のためにテレワークを導入する場面に引き直すと、上記に記載した業務の内容、扱う情報の種類・媒体、セキュリティ・情報漏えいのリスク、業務に使用する機材・ツール、取引先や顧客、他の従業員との関係性等を考慮し、テレワークの対象から除外する理由はないにもかかわらず、有期雇用契約者、短時間勤務契約者が多い部署をテレワークの対象から除外することは、有期雇用契約者、短時間勤務契約者を通常の労働者と合理的根拠なくして、区別しているとして、違法となる可能性が高いということです。

 会社は、従業員に対して安全配慮義務を負っており(労働契約法5条等)、この義務については、無期雇用の正社員であるか、有期雇用契約者、短時間勤務契約者であるかで差はありません。新型コロナウイルス感染症対策という導入目的に照らすと、有期雇用契約者、短時間勤務契約者という理由のみで、無期雇用契約の社員と区別をすることは、適切な対応とは言えません

5.まとめ

 以上のように、法的観点からは、テレワークの導入にあたり、種々の事情を考慮しつつ、合理的根拠に基づき、テレワークを導入する部署を限定する必要があります。

 また、テレワークの導入部署を限定可能であるとしても、テレワークの導入が難しい部署について、説明をおろそかにすれば、従業員の不平・不満につながるおそれがあります。テレワークの導入にあたっては、従業員とコミュニケーションを取り、十分な説明を行うことが重要でしょう。

 さらに、特定部署へのテレワークの導入は、従業員間で不公平感が募り、会社に対する不満につながる可能性もあります。テレワークの導入が困難な部署であっても、時差出勤を認める、全員がテレワークを行うことは不可能であるとしても、交代制での勤務を行う出社して勤務をする従業員に対しては、特別の手当(賃金)を支払うといった代償措置を講じることで従業員間に不平・不満が生じぬように調整を行うことも有用と思われます。

井山貴裕弁護士 杜若経営法律事務所

2015年立教大学法学部法学科卒業。2017年慶應義塾大学法科大学院卒業。2018年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、杜若経営法律事務所入所。労務問題(解雇、残業代請求、労災等)について、使用者側を専門に労働審判、訴訟、団体交渉、労働委員会の各種手続に携わる。

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