さて話をインプレッションに戻す。TNGA由来のGA-Lプラットフォームは、センタートンネル部を拡幅して水素タンクを収めた結果、ボディ剛性がさらに高まっており、その結果よく動くアシのセッティングができている。低速域での乗り心地は魔法のじゅうたんを思わせる、優しく平和で静かな乗り心地だ。直進安定性も全く不安がない。高速道路での長距離移動能力はこのクラスには不可欠なので、そこはしっかりクリアしている。
かつ前回のサーキットテストで限界まで持っていっても、車両重量1.9トンのクルマとは思えない高運動性能を併せ持っている。ここは自動車屋が長年研さんしてきた技術の結晶で、穏やかさと確かさに加え、高いアジリティを兼ね備えるというバランスは素晴らしい。もっとも、同じことがレクサスLSでできなくてどうするという部分は、言いたくもあるが、それで文字数を使うとMIRAIのことが書けなくなるので、今回は封印する。
TNGA世代のGA-LプラットフォームをFCV用に改良したMIRAIのプラットフォーム。本来プロペラシャフトが通る位置に水素タンクの1つを設置する
ステアリングコラムの支持剛性も高いし、切り込んでいった時のリニアリティもお見事である。これ見よがしの濃い味に演出された俊敏さこそないが、穏やかでありながらシュアであるという意味で、プレミアムスポーツセダンとして極めて大人の仕上がりだといえる。
結局のところ、GA-Lプラットフォームでは、LSに勝っているクラウンをさらにMIRAIが越えていった。乗り心地とハンドリングのバランスでいえば、当代最高といえるものになっている。衝突安全がもっと緩く、車両が軽かった時代のLセグメントには、総合的にもっと上があったといえばあったが、それらは今新車で販売することを安全法規が許さない。ということでパワートレインとシャシーには花丸を贈呈したい。
- やり直しの「MIRAI」(前編)
新型MIRAIでは、ユニット配置が全面的に改められた。デザインを見れば一目瞭然。初代から翻って、ワイド&ローなシェープを目指した。かっこ悪い高額商品は売れない。スタイリッシュであることは高額商品にとって重要な商品価値だ。新型MIRAIはプチ富裕層にターゲットを絞り込み、ひと昔前の言葉で言えば「威張りの利く」クルマへの生まれ変わろうとしている。
- やり直しの「MIRAI」(後編)
新型MIRAIは、魔法の絨毯のような極上の乗り心地と、重量級GTとして破格の運動性能を両立している。しかしインフラとの兼ね合いなしにFCVの普及はあり得ない。後編ではそのインフラの今と未来をエネルギー政策全般を通してチェックしてみたい。
- 燃料電池は終わったのか?
2014年末にトヨタが世に送り出したMIRAIだが、最近話題に上ることは少なくなった。「燃料電池は終わった」とか「トヨタは選択を間違った」としたり顔で言う人が増えつつある。実のところはどうなのだろうか。
- 水素に未来はあるのか?
「内燃機関が完全に滅んで、100%全てのクルマがEVになる」という世界は、未来永劫来ないだろう。そのエネルギーミックスの中にまさに水素もあるわけだが、FCVにはいろいろと欠点がある。しかし脱化石燃料を目標として、ポスト内燃機関を考え、その候補のひとつがFCVであるとするならば、化石燃料の使用を減らすために「化石燃料由来の水素」に代替することには意味がない。だから水素の製造方法は変わらなくてはならない。また、700気圧という取り扱いが危険な貯蔵方法も変化が必要だ。
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
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