クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

MIRAI 可能な限り素晴らしい池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/8 ページ)

» 2021年02月08日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 もう一点、トヨタがインテリジェントパーキングアシストと呼ぶ自動駐車システムについて。このシステムはおそらく現在普通に買えるクルマの自動駐車システムとして最良のものだと思う。操作の簡単さ、枠線の中での位置取り、厳しい位置からでも最大舵角まで一気に切って入れきってしまう思い切りの良さ、そして後続のクルマが気になる状況でも素早く駐車してみせる動作の速さ。いずれの面でも素晴らしい。ヤリスやヤリスクロスではドライブとリバースの切り替えが必要だったが、MIRAIはバイワイヤーのため、シフト操作さえ必要なくなった。

 今回いろいろな場面で試し、例えば暗いコインパーキングでフラップ板の軸を収めるボックスの出っ張りが気になるような場面でも、枠線さえそれをキチンと避けて描かれていれば、ピシッと入れることができた。こういうケースでは暗い中で目を凝らして障害物を確認するよりもずっと良い。

 それでだいぶ機能を信頼していた時に問題が起きた。試乗に出かけた途中の横横道路横須賀パーキングで、建物に一番近い枠線に収めようとした時だ。建物側には当然歩道の段差があるが、通路はすれ違いが出来る程度に広く、通路進行方向から出入りしやすいように斜めに描かれた駐車枠は十分に大きく、初心者であってもそんなに苦労しないシチュエーションであった。

 このシステムなら朝飯前だろうと高を括ったのがいけなかった。システムは駐車枠のスペースを認識し左に切って前進する。「あー歩道の段差が怖いなぁ」と思ったものの、こういう自動システムが自分の感覚と違うのはよくあることで、ブレーキを踏みたい気持ちを我慢していたら、そのままアゴを歩道に擦りつけた。

 ギョッとしてブレーキを踏んだが後の祭り。幸い被害は軽微でフロントスポイラーに左角の下端をわずかに傷つけた程度で済んだが、借りたクルマを傷つけた以上、ごめんなさい案件である。すぐにトヨタ広報部に連絡して謝罪と次の借り手に対する対応をお願いした。何しろ今借り出しが引っ張りだこのMIRAIである。次の借り手は必ずいる。

 後で考えれば、認識された障害物はモニター上に黄色くマーキング表示されているので、マーキングされていないことを確認さえしていれば、歩道の段差をクルマが認識しているかどうかは気がついたはずなのだ。

非常に優秀な自動駐車システムだが、万人に安心に使えるようになるにはあと一歩。モニター上で隣のクルマに黄色い枠が表示され、障害物を認識していることが分かる

 後日、チーフエンジニアにこの件を話したところ「低い障害物を認識できないことはトヨタ側でも把握しており、なんらかの手を打たないといけないと考えている」とのことだった。筆者のような専門家であれば、モニターで気付かないのはドライバーの責任だと思うが、一般ユーザーにそこまで求めるのは少し酷(こく)で、その代償がいちいち板金塗装修理となると、ちょっと予算的にも厳しい。それにドライバーが見えている障害物ではない場合どうにもならない。

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