クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

MIRAI 可能な限り素晴らしい池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/8 ページ)

» 2021年02月08日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

室内空間のしつらえとパッケージ

 話は少し戻って室内空間の人間工学的考察だ。運転席はトヨタ車中ベストであるものの、業界トップのボルボと次点のマツダに届かない。特に文句を付けるところはないが、座った瞬間、尻が感じる「なんだこれは」というほどの凄みはない。ただもちろん全部のクルマがそうでなくてはならないということはないので、控えめだが良いという意味ではこれも見識なのかもしれない。

 後席のシートも良い。膝前のスペースが足りないとか、正統派セダンと見なした場合、頭入れが良くないとか、まあ言い出せばいろいろあるのだが、そういうところのプライオリティを上げて、サイズや運動性やスタイルにしわ寄せが来るくらいなら、止めた方が良い。

後席の居住性はシートに関しては十分合格だが、つま先回りに課題が残る。加えて頭入れの問題は本格的セダンとしては不合格

 サイズ的にはすでに十分大きいし、頭入れに関しては、それを考慮したクラウン・マジェスタが、正論の通りには市場に求められなかったことは立証済みで、かつ今や頭入れがしっかりしているクルマはロールスだのセンチュリーだのというクルマしかない。あるいはダイハツやスズキのコンパクトクラスが、小さいゆえにそこを大事にしているだけだ。その姿勢は尊敬するが、プレミアムセダンに求められているものとは違う。

 MIRAIは初代において、とにかくFCVを世に出すことが目的であり、それにどういう商品性を持たせるかまで練り上げられていなかった。2代目の今回、高価格のプレミアムスポーツセダンとしての商品性がようやく形になったのだ。筆者個人としては大径ホイールと扁平(へんぺい)タイヤ、頭入れの悪いセダンには言いたいことがあるのだが、以前の試乗記で書いたとおり、エンジニアリング的な意味(記事参照)も理解しているし、ユーザーニーズは多分そこにある。マーケットが欲しがるものを否定しても始まらない。筆者は仕事としての一貫性を欠くわけにいかないので、そこの否定はするが、トヨタの中の人には聞き流して欲しい。

 というジレンマのあるポイントがもう1つあって、後席乗員がフロントシートの下に足先を入れようとすると、甲が当たるし、左右のシートレールに邪魔されて、お行儀良く膝を揃(そろ)えていなくてはならない。だからといって助手席の座面を上げてもらっては困るのだ。初代MIRAIの最も気持ち悪かった点は、クルマの室内空間における座面の高さで、運転席、助手席共に、頭の位置が高すぎた。ゆえにクルマの挙動に対して一体感が持てない感じが強かった。

 新型に関しては運転席は大丈夫だが、助手席は気持ち座面が高い気がする。これ以上前席の座面を高くして後席の環境改善をするのは賛成できない。可能であれば助手席の座面に影響を与えずにやっていただきたい。これは無理難題と知っての提案である。

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