整理解雇と退職勧奨のポイント コロナ禍で事業停止したタクシー会社の事例で学ぶ違いは?(2/2 ページ)

» 2021年02月15日 07時00分 公開
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7.希望退職も有効な選択肢

 希望退職制度とは、会社が従業員の自主的な退職を募る仕組みのことを指します。

 一部の従業員に退職してもらう場合は、一定の条件を提示して退職する従業員を募る方がトラブルも少なくなります。希望退職に伴う退職の場合であっても、会社都合退職での雇用保険の受給が可能となります。

 全従業員に対する希望退職募集は退職勧奨と変わりがないのではないかとの疑問が湧きますが、実際に筆者は何度も全従業員に希望退職募集を行いましたが、スムーズに退職に同意していただくケースが圧倒的多数でした。

 上記6を当てはめれば、希望退職募集を行ううえで、希望退職募集要項を文書で掲示したり、説明することで十分な「情報」を提供することができます。

 希望退職募集は、一定の期間退職募集を行うので、従業員は「時間」をかけて考えることができます。また、希望退職募集では、割増退職金を支払うことが一般的です。もちろん会社の経営状態によっては多額の金銭を支払うことはできませんが、一定の「金銭」を支払うことになります。以上からすれば、希望退職募集は、これまでの日本の労使関係が生んだ1つの合理的な雇用調整の方法であると考えることができます。

8.再雇用を約束してよいのか

 会社としては退職勧奨をする際に「環境が良くなったら再就職は約束するから」とつい言いたくなるところです。しかし、新型コロナウイルス感染症に関する厚生労働省のQ&A(※3)においても「また、雇用保険の基本手当は、再就職活動を支援するための給付です。再雇用を前提としており従業員に再就職活動の意思がない場合には、支給されません」との記載があり、退職勧奨を行った企業が再雇用を約束することで従業員に再就職活動の意思がない場合には失業手当は支給されません。

 現実には、退職勧奨を行う場合、再雇用を約束できる経営環境にはない場合がほとんどですので、再雇用の安易な約束は行うべきではありません。

9.さいごに

 他国の事例では、新型コロナウイルス感染症は、感染者の増加のスピードが速い一方で減少のスピードが遅いのが特徴です。事業を再開する際に従業員を採用することは困難であり、雇用維持をしていなければ事業再開も困難となります。人手不足の日本においては経営面からも雇用維持が合理的である場合も多いと思われます。そのため、企業は可能な限り雇用維持の努力を行う必要があります。

(※1)日経電子版「タクシーのロイヤルリムジン、コロナで全社員600人解雇へ」(2020年4月8日、2020年5月1日最終閲覧)

(※2)厚生労働省Webサイト(2020年5月1日最終閲覧)

(※3)厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(令和2年4月24日時点版)」問12(2020年4月27日最終閲覧)

著者紹介:向井蘭弁護士 杜若経営法律事務所

1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、同年狩野祐光法律事務所(現 杜若経営法律事務所)に入所。経営法曹会議会員(使用者側の労働問題を扱う弁護士団体)。09年狩野・岡・向井法律事務所(現 杜若経営法律事務所)パートナー弁護士。現在上海に居住し、中国労働法にも取り組む。これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟、賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。主著に「時間外労働と、残業代請求をめぐる諸問題」(共著、経営書院、2011年)、「最新版 労働法のしくみと仕事がわかる本」(日本実業出版社、2019年)。

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