本記事は、BUSINESS LAWYERS「2021年3月1日施行 改正会社法下における「報酬等の決定方針」の定め方」(坂本佳隆弁護士/2021年2月15日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
2019年12月4日に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号。以下「改正法」といいます)と、それに伴って2020年11月27日に公布された「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(令和2年11月27日法務省令第52号。以下「改正省令」といいます)が、2021年3月1日から施行されます。
以下、本稿において引用している法令の条文番号は、改正法または改正省令による改正後のものとします。
改正法により、指名委員会等設置会社を除く上場会社等(※1)においては、定款または株主総会の決議により取締役会の個人別の報酬等の内容が具体的に定められていない場合には、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針(以下「報酬等の決定方針」といいます)を取締役会で決定することが義務付けられることになりました(会社法361条7項)。
(※1)具体的には、以下の2つの類型の会社がこれに該当します。・監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)であって、有価証券報告書の提出義務を負う会社・監査等委員会設置会社
義務付けの対象となる会社においては、改正法の施行日である2021年3月1日以後に、報酬等の決定方針を決定せずに取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合には、その決定は無効になると解されています。各社において、そもそも義務付けの対象となるのか、対象である場合にどのような対応がいつまでに求められるのかを確認しておく必要があります。
この規律は特に経過措置が設けられていないため、義務付けの対象となる会社においては、改正法の施行日(2021年3月1日)時点で報酬等の決定方針が定められていることが原則として必要ですが、施行日以後速やかに決定することでも許容されると解されています(※2)。
(※2):渡辺諭ほか「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説(2)」旬刊商事法務2251号(2021)125頁注45
つまり、義務付けの対象となる会社においては、2021年3月1日までに開催される取締役会で、報酬等の決定方針を定めておくことが望ましいといえます。それが難しい場合には、2021年3月1日以降なるべく早いタイミングで定める必要があります。「施行日以後速やかに」というのが具体的にいつまでなのかは不明確ですが、遅くとも3月の定例取締役会では決議しておく必要があると考えられます。
過去の取締役会で定めた報酬等の決定方針や役員報酬規定に同様の記載がある場合に、あらためて決議をする必要があるかについては下記をご参照ください。
Q:過去(改正法の施行日より前の時点)の取締役会決議の内容が、報酬等の決定方針として取締役会が決定すべき事項を網羅している場合であっても、あらためて決議する必要がありますか?
A:不要です。
Q:既に制定されている役員報酬規定の内容が、報酬等の決定方針として取締役会が決定すべき事項を網羅している場合であっても、あらためて決議する必要がありますか?
A:役員報酬規定の制定や改定が取締役会決議に基づいてされているのであれば、報酬等の決定方針として取締役会が決定すべき事項についても取締役会決議によって決定されていると評価することができるため、不要です。
報酬等の決定方針として定めるべき事項の具体的内容は、会社法施行規則98条の5各号に規定されており、その概要は下表の通りです。
1号 | 報酬の種類ごとに定める事項 | 報酬等(業績に連動しない金銭報酬)の額またはその算定方法の決定方針 |
---|---|---|
2号 | 業績連動報酬等がある場合には、業績指標の内容および業績連動報酬等の額または数の算定方法の決定方針 | |
3号 | 非金銭報酬等がある場合には、その内容および非金銭報酬等の額もしくは数またはその算定方法の決定方針 | |
4号 | 報酬全体について定める事項 | 報酬等の種類ごとの割合の決定方針 |
5号 | 報酬等を与える時期または条件の決定方針 | |
6号 | 個人別報酬の内容の決定方法 | 決定の全部または一部の第三者への委任に関する事項(イ)委任を受ける者の氏名または株式会社における地位・担当(ロ)委任する権限の内容(ハ)権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容 |
7号 | 第三者への委任以外の決定方法 | |
8号 | その他 | その他重要な事項 |
以下、会社法施行規則98条の5各号の内容について条文の順序に沿って解説しますが、報酬等の決定方針としては、その実質的な内容において同条各号に掲げる事項が決定されていれば足り、記載順序や様式について特に限定はありません。
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