業績に連動しない金銭報酬については、その額またはその算定方法の決定方針を定める必要がありますが、額や算定方法の詳細までを決定する必要はなく、算定方法を決定する際の考え方を定めれば足りると考えられます。
取締役に対して業績指標(※3)を基礎としてその額または数が算定される報酬を支給している場合には、ここでいう「業績連動報酬等」に該当します。業績に連動する金銭報酬だけでなく、業績に応じて付与数が変動する株式報酬などの非金銭報酬等も「業績連動報酬等」に該当する点には留意が必要です。
業績連動報酬等に該当する場合には、業績指標の内容および業績連動報酬等の額または数の算定方法の決定方針を定める必要がありますが、額・数や算定方法の詳細までを決定することが求められているわけではなく、算定方法を決定する際の考え方を定めれば足りると考えられます。
(※3)「業績指標」には、以下のようなものが広く含まれます。・売上高、営業利益、経常利益、当期純利益等・株価・自己資本利益率(ROE)、総資産利益率(ROA)等・配当性向・非財務指標(顧客満足度、CO2排出量削減目標の計画値に対する達成度等)・連結売上高、連結営業利益、連結経常利益等
取締役に対して株式や新株予約権を報酬として付与する場合のほか、株式や新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬とする場合(いわゆる現物出資構成による株式報酬や相殺構成によるストックオプション)も、「非金銭報酬等」に該当します。
非金銭報酬等に該当する場合には、その内容および非金銭報酬等の額もしくは数またはその算定方法の決定方針を定める必要があります。
業績に連動しない金銭報酬、業績連動報酬等および非金銭報酬等の報酬全体に占める割合の決定方針について定める必要があります。ここで決定しなければならないのは、割合自体ではなくあくまで割合の決定方針なので、具体的な割合を定めることは必須ではありません。例えば、レンジを用いて示すことや、役位が上がるほど業績連動報酬等や非金銭報酬の割合が大きくなるように設定するなどの考え方を定めることでも足りると考えられます。
なお、有価証券報告書では、業績連動報酬とそれ以外の報酬等の支給割合の決定方針を記載することは求められていますが(開示府令第二号様式記載上の注意(第三号様式記載上の注意(38)において準用)(57)a)、報酬の種類ごとの割合の決定方針まで記載することが明示的に求められているわけではないので、報酬等の決定方針を策定する際に有価証券報告書の記載内容を流用しようとする場合には注意が必要です。
それぞれの報酬について、取締役に対して報酬等を与える時期や条件の決定方針を定める必要があります。それぞれの報酬の内容や額の算定方法の決定方針についての説明の中で、まとめて記載することとしても問題ありません。
なお、有価証券報告書では、報酬等を与える時期または条件の決定方針に相当する内容を記載することは明示的には求められておりませんので、報酬等の決定方針を策定する際に有価証券報告書の記載内容を流用しようとする場合には注意が必要です。
取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部または一部を取締役その他の第三者に委任(いわゆる再一任)することとする場合には、以下の事項を定める必要があります(会社法施行規則98条の5第6号イ〜ハ)。
1.委任を受ける者の氏名または株式会社における地位・担当
2.委任する権限の内容
3.権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容
なお、1.の「委任を受ける者」は、例えば、社外取締役で構成される任意の報酬委員会を設置して同委員会に決定の全部または一部を委任した場合には、報酬委員会ではなく、その構成員である取締役を指すと考えられています。
また、3.の措置としては、委任を受けた取締役等が社外取締役を中心とした任意の報酬諮問委員会の答申や外部の専門家の意見等を得たうえで取締役の個人別の報酬等の内容を決定することなどが考えられますが、このような措置を講ずるかどうかは各社の判断に委ねられています。
会社法施行規則98条の5第7号では、いわゆる再一任以外の決定方法について定めることとされています。例えば、取締役の個人別の報酬等の内容について取締役会が決定するに際して、任意の報酬諮問委員会の答申を得たり、外部の専門家の意見を得たりしている場合には、これに該当します。
以上のほか、取締役の個人別の報酬等の内容を決定するにあたって、各社において重要と考える事項があれば、報酬等の決定方針の一内容として定めておくことが考えられます。例えば、取締役の個人別の報酬等の内容を決定する際の前提となる基本的な理念や、一定の事由が生じた場合に報酬等を返還させるような建付けとする場合における当該事由の決定方針などがこれに該当すると考えられます。
報酬には、取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するという重要な機能があるため、取締役の報酬等の内容を適切に定めるための仕組みを整備することは、ガバナンスの強化の観点から重要であると指摘されてきました。
今回、改正法が上場会社等に報酬等の決定方針の決定を義務付けることとしたのも、企業による「仕組みの整備」の一環として、報酬決定プロセスの透明性を向上させることが目的といえます。
ガバナンスの強化という至上命題を達成するためにも、各企業が、今回の改正を自社の報酬制度全体を見つめ直す好機と捉え、自社に適した仕組みの整備を目指すことが期待されます。本稿がその一助となれば幸いです。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2009年弁護士登録(62期)、2019年カリフォルニア州弁護士登録。2012年〜2013年東京大学法科大学院非常勤講師、2016年〜2017年米国ロサンゼルスのReed Smith法律事務所勤務。2017年〜2019年に法務省民事局へ出向し、令和元年改正会社法の企画・立案を担当。M&A及び会社法関連業務を中心に、企業法務を幅広く手掛ける。最近の著書・論文として、『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務、2020年)(共同執筆)、「令和元年改正会社法の解説(1)〜(8)」(旬刊商事法務 No.2222(2020年2月15日号)〜No.2229(2020年4月25日号))(共同執筆)ほか多数。
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