クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

マツダ初の「MX-30 EV」 姿を現したフルスペックのGVC池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2021年03月08日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

EVなんてみんな同じ……にならないために

 ではMX-30に見所がないかといえばそういうことでもない。性能に対して高い価格と、短い航続距離と引き替えに、マツダは、マツダらしい運転の楽しさを存分に盛り込んできた。マツダ自身は「MX-30は、シリーズ全体でマツダの電動化戦略の切り込み隊長」と定義する。それは取りも直さず、マツダは電動化でどういうクルマ作りを目指すのかということでもある。だからMX-30 EVの果たすべき役割は、ヒットモデルになって売り上げを稼ぎ出すことではなく、マツダのマツダによるEVとはこういうモノだと、社内外に指し示すことが今やらねばならないことであり、極端にいえばそこができていれば売れなくても構わない。筆者にはそういう立ち位置に見える。

 そしてマツダの電動化戦略のキーになるのは、ここしばらくマツダ車のハンドリングを支えてきたGVC(Gベクタリングコントロール)を拡張したeGVCである。

 GVCは、ここまで3段階の進歩を遂げている。オリジナルのGVC、その拡張版のGVCプラス、そして今回のEV用のeGVCである。

 GVCでは、前後のタイヤが持つ役割分担のどちらを支配的にするかをエンジン制御だけで行っていた。それはつまり、ドライバーのアクセル踏み込み量を、電子制御で微細に減らすことで、舵輪(だりん)であるフロントタイヤの効きを強める仕組みであり、それだけでも驚く程の効果を発揮していたのである。

 GVCプラスではこれに補助的にブレーキの制御が加わった。通常「曲がる系」の文脈において、ブレーキ制御といえば、イン側前輪に片輪制動を掛けて、強制的にヨーを発生させて曲がるものだが、GVCプラスでは、曲がり終わって直進に戻っていく時にブレーキを使う。コーナリングのピークを過ぎてから外側前輪に弱く片輪ブレーキを掛けることで、ヨーとロールを同時に収束させて、安定姿勢への復帰を早める仕組みだ。

 曲げる側、つまりヨーを立ち上げる側でブレーキを使うと、極端な話、コーナリングのピークを過ぎたところで「曲げる」ためのブレーキ介入が解除されるため、舵角(だかく)+ブレーキの和で発生させていたヨーモーメントは、いきなり舵角のみのヨー発生量に変わる。路面の状態が厳しい環境だと、これによって曲げる力が不足して、コーナリングのピーク、つまりアペックスを過ぎているにもかかわらず、ステアリングを追加切り込みしなくてはならなくなるケースがある。これは非常に不自然だ。だからGVCプラスでは、曲げる側はあくまでもトルクだけで制御し、安定側に戻す場合にのみブレーキを使うのである。

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