クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

マツダ初の「MX-30 EV」 姿を現したフルスペックのGVC池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)

» 2021年03月08日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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白物家電化を防ぎ、個性的な商品であるために

 さて、少し話題が変わる。何をどうやっても必ず何らかの「味」が出てしまうエンジンと違って、モーターはなかなか味が出しにくい。だからメーカーの味の差別化が難しいのだ。何度も引き合いに出して申し訳ないが、テスラは絶対的加速力を押し立てることで商品性を加えている。

 テスラはスタートアップ組なので、社会の側に「テスラの味」についての共通認識がない。そこへ行くと既存の自動車メーカーは、それなりに伝統に培われた乗り味があり、作る側と乗る側の間に、共通認識がある。だから、EVを差別化する商品性の確立を考えた時、そのメーカーがこれまで培ってきた乗り味の再現に勝負のポイントがあるのだ。この面において日本のメーカーは遅れていたが、マツダやスバルがそこに「らしさ」の確立に成功し、トヨタも今まさにトヨタの味を社会に広めつつある。

 そうした社会とメーカーの間にある共通認識に沿って、例えばジャガーはI-PACEでジャガー味のEVを仕立ててきたし、ポルシェはタイカンでポルシェ味のEVを作り上げた。そういう意味ではマツダがしっかりとマツダらしいEVを、このMX-30 EVで作り上げてきたことには大きな価値があると筆者は思う。やがてバッテリーの諸問題が解決した折りには、ここで確立したマツダらしいモータードライブは、次世代のマツダの個性にちゃんとつながっていくはずだ。

 さて困った、実はここからインプレッションと、マツダがセルフエンパワードビークルと呼ぶ介護仕様の話がガッツリ始まる予定だったのだが、それではとんでもない長さになってしまう。今回はここで一度閉めて、多分後編は近々臨時追加号として書きたい。

 さて今回のまとめ。マツダMX-30 EVは商品として割高で、航続距離の制限も厳しい。お勧めはしない。しかし、マツダファンであれば、是非一度試乗してみるべきだ。それはマツダがこれから作っていこうとするクルマの姿を、このクルマがいち早く体現しているからである。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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