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DXに「リスキリング」で対応する “リスキリングする組織”へ転換する4つのステップ(1/2 ページ)

» 2021年04月23日 08時00分 公開
[リクルートワークス研究所]

 大きな産業構造の転換が起こっている今こそ、人々を成長分野に移動させるための再教育が求められている。そのキーワードが、“リスキリング”である。リクルートワークス研究所で「DX時代のリスキリング」という研究プロジェクトを進める主幹研究員の石原直子は、「米国では既に大きな潮流となっていますが、日本では2020年に入り、ようやく話題に上るようになりました。それでもまだ、認知度はそれほど高くありません」と話す。

リクルートワークス研究所『Works』

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 『Works』は「人事が変われば、社会が変わる」を提唱する人事プロフェッショナルのための研究雑誌です。

               

 本記事は『Works』165号(2021年4月発行)「Part 2 社員の能力・スキルの向上と変容をいかに行っていくか」より「方法1:DXにリスキリングで対応する」を一部編集の上、転載したものです。


リスキリング=DX時代への対応

 リスキリングはそもそも特殊な言葉ではなく、人材開発の領域では英語で一般的に使われてきたものだ。「英英辞典で引くと、“人々の職業能力や職業に必要な能力を、新しいものに変えていくこと”とあります。つまり、行為の主体者は “国”“社会”“企業”です。人が“変わる”のではなく、国、社会、企業が人を“変える”ことなのです」(石原)

 技術革新によって消滅する職務に就いている人に別のスキルや能力を身につけてもらい、他の職務に配属し直す、ということは、いつの時代も行われてきた。電話交換手や駅で切符を切る駅員などは、その仕事がなくなったのち、能力・スキルの再開発によって異なる仕事に移っていったはずだ。

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 「それがなぜ、ここに来て注目されているかというと、デジタルトランスフォーメーション(DX)が人々の仕事に大きな変化をもたらし、それによって多くの仕事が失われるという共通認識が広まっているからです。もともと欧米企業は仕事と能力・スキルが深く結びついたジョブ型で働く人が多く、だからこそ、ある仕事がなくなったら即失業となり得るため、別の仕事に就くためには新しいスキルをまず獲得する、という感覚があります。デジタル時代に自分の職がなくなるなら次の仕事に就くためにデジタルスキルを身につけなければ、と考えます。つまり、現代的なリスキリングとは、デジタルスキルを身につけることを定義する概念として狭義で使われているのです」(石原)

現場の第一線の人々からリスキリングを始める

 このデジタル時代のリスキリングに対して、「2つの誤解をよく聞く」(石原)という。「一つは、DXに必要とされるデジタルスキルよりも、例えばプログラミングの前提となる論理的思考力であったり、デザインシンキングであったり、リーダーシップコンピテンシーのほうが重要である、という言説です。それらの能力はいつの時代も必要なのであって、デジタル時代には、デジタルで何を実現するのかを構想し、具体的な構築・実装まで行うことができるスキルこそが求められます」(石原)

 もう一つは、デジタル人材の不足という文脈では、高度なデータサイエンスやAIの深い知識・学位を獲得している、といった人材をどう採用し、どう育てるのか、あるいはそのようなデジタル人材を外国企業に奪われないためにどうすべきか、ということばかりが語られることだ。「もちろん専門職としてのトップ・オブ・トップも大事であることには違いないのですが、本質はそこではありません。DXによって価値創出に貢献できない人が増えてしまわないように、フロントライン、つまり現場の第一線の人たちがデジタルツールを使えるようにいかに変えていくかが重要なのです」(石原)

 特に、フロントラインの人々のリスキリングの重要性はコロナ禍によって鮮明になった。2020年には多くのオフィスワーカーが非対面で仕事をすることを余儀なくされた。「仕事のやり方も、明らかに変容しました。例えば営業職では、頻繁に訪問したり、時には接待したりするなどして時間をかけて胸襟を開いてもらう、という仕事のやり方は過去のものになりつつあります。現在は、商品の優れた点をオンラインかつ短い時間でプレゼンテーションする必要があります。そして、既存顧客への販売はオンラインでのオーダーのみ。営業職はこのスタイルで仕事を遂行するために、デジタルツールの使い方に習熟していかなければなりません」(石原)

 これまで重要だと考えていたことの優先度が変わり、必要とされていた仕事がなくなっていく、ということに多くの人々が気づいたのが2020年だったといえる。DXはこのような現場の業務プロセス改善から始まるため、フロントラインでのリスキリングが今、急務なのだ。

“リスキリングする組織”へいかに転換するか

 では、どのように人々のリスキリングを実現するのか。「リスキリングを継続的に実行できる組織になっていかなければなりません。そのためには、4つのステップが必要です」(石原)

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