長谷川: 牛丼チェーン店の大手3社、吉野家・松屋・すき家、どれかのCMOになったらどうしますか?
吉野家の戦略って不思議だなと思っていて、吉野家もメニューを増やそうと思えばできるのに、しない。メニューの幅では、すき家、松屋、吉野家の順番だと思います。でも、牛丼といえばやっぱり吉野家だと思うんですよね。
富永: 吉野家は、「牛丼といえば吉野家」ということを担保するために、ずっと牛丼にフォーカスしている。手練手管を使ってくる松屋とすき家からの攻撃を、王者がいかにディフェンドするかという競争の構図だと思うんですよね。
牛丼の世界で吉野家が第一想起だってことは疑いの余地がないと思います。想起というのは3段階あります。まずは、ヒントをもらったら思い出せる助成想起。コンビニの棚で「あ、これこれ」と思い出して買うのは助成想起です。
次にグレードが高いのは非助成想起。ノーヒントでも分かるということ。ランチに行くとき「今日はあの店で食べよう」となるのは非助成想起です。ブランドとその人の結び付きが強く、より選択的に来店してもらえるということです。それよりいいのは第一想起。トップになること。どんなブランドでも第一想起になるとめちゃくちゃ強い。
でも、仕事が面白いのは、やっぱり守る方じゃなくて攻める方。CMOとして働くなら、松屋やすき家の方が面白いんじゃないかなと思います。
長谷川: 富永さんがCMOだったら吉野家で親子丼、出しますか? 出しませんか?
富永: 出せないですね。臆病なようですけど、吉野家の最大の武器は「牛丼の第一想起」。もし親子丼をやるとしても、吉野家とは違うバナーでやると思います。
長谷川: 一途さが大事ってことですか?
富永: ブランドって、これまで築いてきた強みや資産を簡単に手放してはいけないんです。これだけは守り続けるというブランドの約束事はしっかり決めた方がいい。それが曖昧になると、第一想起ではいられなくなってしまいます。
ブランドを維持することがなぜここまで大切なのか。人間には「流暢性」(りゅうちょうせい)という性質があって、なじみがあるものに親しみを感じて選んでしまうんです。ブランドを作る理由は、まず名前を知ってもらうこと。知名してもらえる状態を作るのが最初のステップです。便益やアイデンティティーを知ってもらうのはその後です。
そう考えると、ある程度「面」があるのがやっぱり有利。店数ある方が有利なんですよ。となると、やりたい商品があるからバナーや商品数をどんどん増やすこととすでに確立した強みを強化することは、どっち付かずにならないようにしたいところです。
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