攻める総務

買収する企業、される企業 2社の社内制度をどう融合? 人事がやるべきことリスト突然のM&A その時、人事がキーマンになる(2/3 ページ)

» 2021年11月08日 11時30分 公開
[桐ケ谷優ITmedia]

M&Aのプロセスと組織・人事関連のタスク

 M&Aの一般的なプロセスと対応する組織・人事関連のタスクは以下の通りだ。

photo M&Aの一般的なプロセスと対応する組織・人事関連のタスク(筆者作成)

 一般的にM&Aは、案件のソーシングフェーズからスタートし、その後は以下のようなさまざまなケースに分かれる。

  • 買収側が買収の対象となる企業を定めアプローチをかけていくケース
  • 金融機関や仲介会社が買い手側に売り手側の情報を提供することから交渉が始まるケース
  • 売り手側自身が競合企業や取引先に自社の事業売却をもちかけるケース

 この段階では買い手・売り手どちらの企業でもM&Aに関する情報に触れるのはごく一部の経営層に限られる。

 そして、次のエグゼキューションフェーズでは、買収スキームの検討やデューデリジェンス(買収価格算定のための事前調査・リスク分析)が行われる。人事部門の関係者が関与し始めるのは通常この段階からである。デューデリジェンスでは、ビジネス、法務、財務などの調査と共に、人事に関する調査も行われ、これを「人事デューデリジェンス」と呼ぶ。

 「人事デューデリジェンス」の具体的な内容としては、以下の事項などについて網羅的に確認する。

人事デューデリジェンスの確認事項

対象企業の人員構成、人件費水準と内訳、人事諸規定類の整備状況、労使協定等の届け出状況、給与計算、勤怠管理、未払賃金・未払残業の有無、退職給付債務の有無、健康保険組合、労使関係、入退社の状況、人事制度の運用状況、対象企業のキーパーソン、人事情報システム、人事業務に関連するベンダーの利用状況、人事部門の運営体制


 買収先企業が人事面で大きな債務やリスクを抱えていないか検証するとともに、買収後の業務統合やシナジー創出に向けた人事課題を把握する。

 さらにM&Aの正式合意が見え始めると、具体的な人事統合に向けた方針を策定し、具体的な人事統合作業を進めていくこととなる。

 M&Aにより2つの会社を合併させる場合は、合併後の組織や役職、就業規則、報酬水準、退職金制度、評価システム……などをどうするのか、一つひとつ決めていく必要がある。M&Aの実行日であるDay1まで時間の余裕があり、正式合意後から統合までに人事統合を先行して進めるケースや、一方で合併までに時間がなく、ひとまずは1社2制度でそのままスタートを切るケースがある。

 また、第1回で触れた「従業員とのコミュニケーションプラン」についても、正式合意からDay1までの期間に具体的なプランを検討しておく。Day1に向け、従業員に対し、「誰から何を伝えるのか?」「何を伝えないのか?(伝えられないのか?)」「まだ正式決定していないことはいつまでに決め、伝えるのか?」を整理する。

 さらに、M&A後の人事オペレーション(給与計算や社会保険事務などの日常的なオペレーション)についても、複数の選択肢(内製とするか外注とするか? など)を比較し、合併後の人事オペレーションが遅滞なく進むよう準備を進めておく。

 Day1後のPMIフェーズ(Post Merger Integrationの略、M&A成立後の融合プロセス)では、組織・人事面からさまざまな融合施策を検討・実行していく。具体的には、両社従業員による全社横断プロジェクト、行動指針の策定、人材交流、経営陣と従業員の車座・座談会、職位別・階層別のワークショップや研修実施、従業員向け意識調査などが該当する。

 当社クレイア・コンサルティングでは2019年にM&Aを経験した大手企業20社の人事責任者にヒアリング調査を行った。その調査結果から、「合併後に実施した主な人事施策」(PMIフェーズにおける人事施策)として、「経営陣からの継続的なメッセージの発信」「新会社としての行動規範の策定」などの施策が挙げられた。ほかには、「評価制度の見直し」「営業部門のKPI設定」「タスクフォース・社内横断プロジェクトの立ち上げ」「ワークショップ研修の実施」といった施策を挙げる企業も見られた。

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