年末調整の電子化は「サービス導入で解決」ではない 「中途半端な電子化・効率化」に潜むリスク連載「情報戦を制す人事」(3/4 ページ)

» 2021年12月09日 16時30分 公開
[伊藤裕之ITmedia]

「サービスを導入すれば完了」ではない 効率化“しきれなかった”ケース

 「当社は年末調整を電子化したので、担当者はかなり楽になったはず。何が問題なの?」 と、一見そう感じるのですが、実現に向けてはいくつか超えるべきハードルがあります。

 ポイントは「あくまで任意の電子化で、従業員の協力が得られるのか?」です。

 申請ワークフローシステムによる年末調整申請の利用率は年々高まっています。そもそも、ワークフローシステム導入のきっかけが年末調整申告を利用するケースも多くあります。

 その一方で、担当者にとっては申請サービスを導入して効率化完了、というわけにはいかない事情があります。大多数の従業員にとって、「年末調整は人事の仕事」という価値観が根強く残っているためです。

 以前、すでに99%の従業員に年末調整申請を公開、申請提出を行っている、従業員数万人規模の企業の地方事業所(工場)にお邪魔して、事業所人事担当者とお話したことがあります。

 人事担当の方は「やればすぐなのに、全然自分で申請を入れてくれないんですよね。仕方なく電話でオペレーターのように一つひとつ操作を伝えたり、隣についたりして入力を手伝っています」と人事担当の業務負荷になっている状況を話しておられました。

 「え、でもそれってレアケースで、言っちゃなんですが、われわれより上のあまりWeb慣れしていない世代の方ですよね?」と聞くと、「うーん、あんまりそんなことなく若い世代にもいますね……そもそもマニュアルに書いてあるのに質問してくる他人事な従業員も多くて、自分で全て実施する従業員は、体感6割くらいですね」とのこと。

 これには驚きました。統計を取っているわけではなく、あくまで体感値でしょうが、数千人の従業員を抱える事業所の4割ほどが人事担当のサポートを求める状態では、人事業務の改善など夢のまた夢です。

 もしかしたら、極端な例かもしれません。ただ、その一方で多くの企業では「自分の大事な年末調整で、申請画面も整っているのに、ちゃんと申請をしてこない」ということが担当者の悩みなのです。

 ちゃんと申請してこなければ、申請に対する差し戻しも頻発します。

 上記の企業では、年末調整申請における差し戻し率は5%です。そう聞くと大したことないと思われるかもしれませんが、3万人企業であれば5%は1500人。つまり、それなりの規模の1企業分の従業員に対して、差し戻しの案内やその後のフォローをすることになるのです。

 「へえ、世の中には意識低い従業員も多いなあ」と思っている方、ちゃんと年末調整申請や人事考課を期日通りに提出してますか? リマインドが来るまで放っておいていませんか? 申請が期日に遅れることや、期限直前に駆け込みで申請が集中することも、担当者にとって業務負荷を高める原因です。

 なぜ、このようなことが多いのか。多くの社員が、以下のような認識を持っているからです。

 「自分の仕事で忙しいのだから、年末調整の申告なんか後でいい」

 「年末調整は仕組みがよく分からないし、取りあえず締切だから去年の内容をそのまま出しておこう。何かあれば人事がチェックしてみてくれるだろう」

 上記のような「年末調整は人事の仕事」という意識が人事担当の敵であり、業務効率を低下させる最大の原因となります。

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