控除証明書などの電子化の浸透を阻むもう一つの壁が、今回の電子化はあくまで任意のものである、という点です。これまで通りの運用でもOK、ということですが、言い換えれば、電子申請と紙申請が混在するということです。
電子と紙が混在していると、担当者は2通りのチェックをせざるを得ません。現在でも、Web申請に必要な従業員用端末を十分に用意できなかったり、ITスキルの低い(ないしは意欲に薄い)従業員をWeb申請に誘導できなかったりなどの理由で、多くの企業の年末調整は、Web申請と紙申請の混在が続いています。
今回の電子化を任意で進めた場合、これまで控除証明書、申告書の添付→チェックで統一されていた業務が、既存の紙と電子の2つに分かれることになります。
運用方法の統一は業務改善の第一歩です。このことから、今統一されている年末調整のコア業務が2つに分岐することは担当者にとって負担がある恐れがあります。当社Works Human Intelligenceが実施した年末調整電子化に対するアンケート結果でも、担当者の懸念はこれまで記載した2点に集中していることが分かります(※2)。
(※2:年末調整電子化に関するアンケートより)
「在宅勤務が基本になったんだから年末調整も電子化の流れに乗るべき」のような議論だけで実施に移るものではない、と理解できるのではないでしょうか?
長くなりましたが、上記前提を踏まえてもう一度年末調整における控除証明書などの電子化によって、従業員にはどんなメリットがあるか、再度国税庁の説明を見てみましょう。
従業員は、これまでの手書きによる手続(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略でき、年末調整申告書の作成を簡素化できます。
また、書面で提供を受けた控除証明書等を紛失した場合は、保険会社等に対し、再発行を依頼しなければなりませんでしたが、その手間も不要となります。
例えば当社のシステムで年末調整の電子申請を利用していると、上記の「これまでの手書きによる手続(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略でき」の部分はおおむね解決できています。
控除額の計算は自動ですし、保険料であれば前年の登録データがデフォルト表示されています。入力画面も例年工夫が進み、そこまでストレスなく入力できます。
となると従業員にはほぼ新しいメリットがありません。
その一方で、電子化にあたって従業員が準備しないといけないことがあります。
そもそも、申告データを取得できるPC環境の準備は必須ですし、これまで自宅に送られてきたハガキではなく、従業員本人で各保険会社、金融機関のWebサイトからファイルを取得しなければなりません。
同じ保険会社で統一している方はいいかもしれませんが、住宅+保険で複数の会社からデータ取得することを考えると「ハガキ切り取ってホチキスで止めるほうが楽」と感じる従業員も多いかもしれません。
また今後、最後の課題となりそうなのが、マイナンバーカードの取得やマイナポータルの開設手続き、さらには民間送達サービスの開設手続きです。
電子化という点で考えた場合、前述した3つの方法のうち「年末調整申告時に、申告システムからマイナポータルにAPI連携してXMLファイルを取得して取り込む」の対応がもっとも業務改善につながるはずですが、そのためにはマイナンバーカードの取得が必須となります。
ただ、現時点(21年11月)のマイナンバーカードの取得率は39.1%(※3)となっています。
(※3:総務省 マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和3年11月1日現在)より)
この状態で電子化を進めようと思っても、従業員の理解を得て、必要な準備をしてもらうことは結構な労力が必要となるでしょう。
それでは、電子化はどのように進めていけば、当初の目的である「効率化」を成し遂げられるのでしょうか? 後編(12月10日公開予定)では、具体的なアクションプランをご紹介します。
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