不正転売について考えてみたどのように転売ヤーにとっての魅力をなくすか(3/5 ページ)

» 2021年12月18日 11時00分 公開
[ニッセイ基礎研究所]
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2――転売ヤーと「禰豆子のポップコーンバケツ」

 しかし、残念ながら二次流通業と消費者との関わりにはそのようなポジティブな側面だけでなく、ネガティブな側面も擁しており、その代表となるのが「不正転売」の存在である。今回メルカリとユー・エス・ジェイが結んだ協定も「不正転売」対策の一つとして位置付けられている。

 テーマパーク市場では、消費者のテーマパークでの体験価値のほかに、パーク内で販売されているグッズ(お土産)も消費者の満足を充足するものであり、テーマパーク各社はグッズ企画に注力している。それ故に現地でしか買うことができないという点でテーマパークのグッズには付加価値がつき、さらに期間限定商品や数量限定商品などはマニア垂涎(すいぜん)のグッズなのである。

 そのため、俗にいう「転売ヤー」とよばれる不正転売を行う消費者によって、それらのグッズは不当に価格が吊り上げられ、二次流通業者を仲介して販売されているのである。不正転売が行われると、本当に欲しいと思っているパーク来園者にも商品が手に入れることができないデメリットが生じる。また、不当に価格が吊り上げられた商品が横行することで、「その価格で売れるなら、次に行ったとき転売用に買って来よう」といったように転売ヤーの数の増加にもつながってしまうのである。

 また、悪質転売行為は商品そのものにとどまらず、グッズを購入する権利すらも販売対象としている者もいる。例えば、東京ディズニーリゾートはコロナ禍における三密を回避するために、来園者は当日中ならば専用のサイトからパークグッズを購入できるという対策をとっているが、その対応を悪用して、入園後にその使用済みチケットを再販してグッズ購入権利を高額で譲渡している者も現れている。

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにおいては「鬼滅の刃」の禰豆子のポップコーンバケツが発売された当時5時間を超える待機列ができるほどであったが、その列に並んでる大半が転売ヤーであったため、不正転売目的に買い占められ、純粋にポップコーンバケツが欲しかった来園者まで購入できないことが問題となっていた。その後、購入個数制限や整理券配布などの対策は取られたが、依然高額不正転売は続いており、転売そのものに対する直接的な処置としての大きな成果は見られなかった。

 今回締結された「マーケットプレイスの共創に関する覚書」ではユー・エス・ジェイ側は「メルカリに対する、特定の新商品発売情報や商品情報、商品画像などの提供」「Webサイト等での注意喚起の実施」「店舗で混乱が起きると予想される場合、販売制限を行うなど、必要な措置の実施」といった対応を行い、それに基づきメルカリ側は「ユー・エス・ジェイからの情報提供に基づいた、「メルカリ」アプリ上や公式ブログでの特定の新商品や一部のチケット類に関する注意喚起」「ユー・エス・ジェイと協議の上、合意した特定の商品について、「メルカリ」の利用規約に違反する出品への削除対応の実施」「ユー・エス・ジェイと協議の上、合意した特定の商品に関する出品について、注意喚起を行うアラート機能の発動」といった形で対応していくようであり、手始めに「禰豆子ポップコーンバケツ」がその対象となっている(※2)。

 ユー・エス・ジェイにとってはメルカリに不正転売目的で出品されることを防ぐことができ、メルカリ側にとっても不正転売の横行を防ぐことでマーケット秩序の維持につなげることができるのである。なお、2021年12月2日より、「禰豆子ポップコーンバケツ」は購入時に本人の入場券が必要となり、また購入個数は販売期間中一人につき1個までというルールが加わり、今後不正転売の状況は少しずつ改善していくと思われる。

 この他にもメルカリは2021年3月17日、「ユニクロ」や「GU」を展開する株式会社ファーストリテイリングと同様の協定を締結(※3,4)している。例えば昨今ユニクロでは、ファッションデザイナーのジル・サンダー氏とコラボした「+J」シリーズやファッションブランド「Theory」とのコラボ商品「UNIQLO x Theory」などレギュラー商品ではない限定品を展開し、消費者から高い注目を得ており、2020年11月に発売した「+J 2020年秋コレクション」の発売時は、通常1万9900円のコートがメルカリでは約6万円で出品されるなど、不正高額転売の対象となっていた(※5)。中でも名古屋のJRゲートタワー店では一般消費者と転売ヤーが殺到してマネキンや窓が壊されるなど、混乱が生じたことを覚えている読者もいるのではないだろうか。

 メルカリサービス開始7周年記念に公開された調査(※6)によれば「ユニクロ」が3年連続で出品・購入ともに最も多く取引をされているブランドに選ばれており、ファーストリテイリンググループブランドのさまざまな商品が流通していることが分かっている。もちろんサスティナブル消費や資源活用のためというリユーズの意識の下取引されているのであれば、大いに商品の循環は行われるべきであるが、残念ながらそのような取引だけでなく、人気の最新ユニクロ商品が高額不正転売の対象となっているのである。

 本協定においてもユー・エス・ジェイと同様に特定の新商品発売情報や商品情報、商品画像などが提供がされ、それに基づいて合意した特定の商品を「メルカリ」の利用規約に違反する出品として削除対応が行われている。それでも出品者側は隠語を用いて商品を出品したり、深夜帯のメルカリ側のチェックが入りにくい時間帯だけ出品をするなど、運営側とのいたちごっことなっている。

(※2)メルカリとUSJが転売対策で連携 まずは「禰豆子ポップコーンバケツ」に注意喚起(2021/11/22) ITmedia NEWS

(※3)メルカリとファーストリテイリング、安心・安全な取引環境の構築に向けた包括連携協定を締結(2021/03/18)

(※4)2021年12月3日メルカリは、セブン-イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3社とも、転売対策に向けた包括連携協定を締結したと発表した。コンビニからメルカリには、限定品や「一番くじ」などの景品、非売品(販促物)などの価格や写真などを事前に提供。メルカリは共有された情報を基に出品物を監視して、高額転売品や不正入手した商品などについて、コンビニ各社と協議しながら出品を防止する(2021/12/03)

(※5)メルカリ、ユニクロ新商品「+J」の高額転売に注意喚起 倍額での出品も(2021/03/19) ITmedia NEWS

(※6)フリマアプリ「メルカリ」、 サービス開始7周年記念インフォグラフィックス公開(2020/07/02)

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