クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜクルマのボディはスチール製なのか 軽量化に向けて樹脂化が進まない理由高根英幸 「クルマのミライ」(2/4 ページ)

» 2022年02月01日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

剛性を高め軽量化と安全性の両立にも貢献

 近年、衝突安全性と軽量化を両立させる素材として、高張力鋼が用いられるケースが増えている。ハイテンション鋼、通称ハイテンとも呼ばれるこの母材は、実は相当昔から存在していたが、加工性やコストの問題からクルマにはあまり使われてこなかった。

 プレス加工や溶接性が通常の炭素鋼と比べて劣ることに加え、大量の鋼材を使用するクルマの場合、母材や加工のコストが販売価格に大きく影響するからである。

 それが近年(といっても発端は20年くらい前になるが)の衝突安全基準や燃費規制をクリアするために利用されるようになり、むしろ最近はクルマのために新素材や製法が開発されているという印象すらある。

 引っ張り強度で980MPa(通常の炭素鋼の2倍以上!)を超えるスーパーハイテンと呼ばれる超高張力鋼も開発されている。1500MPaを超えるスーパーハイテンは、剛性を高めたいBピラーなど構造材に使われるが、冷間でプレスすると高い圧力が必要なうえに割れなどが生じやすく、金型通りに成形されずに反ってしまうスプリングバックなどの問題も起こる。

 そのため材料を温めてプレスする、ホットスタンプなどの生産方法が用いられてきたが、それでは設備も含めたコストも上昇してしまう。そのため素材や金型、プレス方法の工夫によってコールドスタンプでも成形できるよう開発が進められている。

 クルマのプラットフォーム化が進んで、高いレベルのプラットフォームシャーシが開発されるようになったが、その実現にも高張力鋼は大いに貢献しているのである。

 だが面白いことに実は、高張力鋼も低炭素鋼も強度はほぼ同じなのである。剛性(=たわみにくさ)が変わることで、一定のレベルまでは変形しにくいが、硬くなる分脆(もろ)さも高まるので、破壊強度としてはそれほど変わらないのだ。

 最近はCAE(コンピュータによる数値化シミュレーション)により解析して最適化することにより、ほぼ衝突実験に近い予測ができることから、低弾性な炭素鋼と高弾性なハイテンを上手く使い分けて、軽量化と高剛性、衝撃吸収性を兼ね備えさせているのである。

モノコックの部材ごとに鋼板の特性を変え、それに対応したプレスや曲げ、溶接技術が開発されている。これらはサプライヤーと自動車メーカーの共同開発であることも少なくない

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