クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜクルマのボディはスチール製なのか 軽量化に向けて樹脂化が進まない理由高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)

» 2022年02月01日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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接合方法の多様化で鉄以外の採用が増えるか

 基本的に(一部の合金鋼や鋳物では溶接に向かないので)鉄は溶接性に優れることも大きなメリットだ。スポット溶接、それも工業用ロボットによる作業によりボディの生産が行なえるのは、高品質なクルマを比較的安価で提供できる基盤となっている。近年はレーザー溶接やアルミ合金の溶接も自動化が進んでいるが、すでに十分にこなれた技術である鋼板のスポット溶接と比べると、コスト面ではまだ大きな開きがある。

 そして異素材となると融点が異なるため、スポット溶接やレーザー溶接などでは接合できない。これがクルマのボディに鉄以外の採用を遠ざけている理由の一つだ。しかし近年は接合方法も多様化し、それぞれが改良されることでクルマを進化させている。

 構造用接着剤もクルマの構造の変化や性能を向上させた素材の一つといえる。スポット溶接が点(といっても大きな点だが)でつながっているのに対し、レーザー溶接は線でつながり、溶接部分の強度は高まる。そして接着剤は面でつながるために、非常に強固にできる。そして素材や目的により接着剤を選択することにより、異素材の接着も容易になる。

 また最近は、減衰ボンドと呼ばれる制振と接合を兼ね備える接着剤も登場している。これにより高剛性と制振性、軽量化を実現できるというから、今後採用が増えることは間違いないだろう。

 これからEVが主流になると車体の軽量化はますます追求されることになる。それと共に重視しなければならないのは、リサイクル性だ。

 クルマは現時点でも再資源化率で99%(重量比)を実現しているリサイクルの優等生だが、それも鉄が主体という構成が大きい。アルミ合金や樹脂もリサイクルされているが、樹脂は元の素材として使われることは少なく、ほとんどは熱利用されているのが現状だ。アルミは合金として使用されているため、二次素材として利用するためには精錬にコストが掛かるのが難点。鉄は比較的精錬が容易なので、二次素材として生まれ変わらせやすい。

 その証拠(?)に鉄スクラップの価格が上昇した最近は、山中などに不法投棄された廃車がかなり解消される(厳密には違法行為なのだろうが)など、ある意味環境保全にも役立つ効果を見せている。

 この他にもクルマにおける鉄の持つ魅力はまだまだある。ボディ全体がしなることでコーナリングをより自然にしている効果など、鉄でなければ実現できない乗り味も捨てがたいものの一つだ。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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