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50代の転職後年収が上昇中 「35歳転職限界説」はもはや過去のものかミドル&シニア活用が企業の急務に?(3/4 ページ)

» 2022年02月28日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 人材の採用は、ハローワークを経由すれば無料の場合もありますが、市場でニーズの高い経験やスキルを備えた人材を採用したい場合、求人広告に掲載する費用を覚悟しておかなければなりません。それでもなかなか望む人材に出会えなければ、有料職業紹介サービスを利用することも考えられます。その場合、採用を決めると初年度年収の35%程度の手数料がかかります。

 仮に年収700万円の人材を有料職業紹介サービス経由で採用するとしたら、700万×35%=245万円の費用がかかります。それだけの費用をかけて採用するわけですから、長く勤務して、将来的にたくさんの利益をもたらしてくれることを期待したいものです。しかし、これまでは60歳を定年と考えると、入社時年齢が50歳なら10年、55歳なら5年しか勤務できませんでした。

 今は65歳までの雇用確保が義務付けられています。50歳で採用しても、戦力として15年勤務してもらえる計算です。さらに法改正で、70歳まで就業機会を確保することが努力義務となりました。すると、期間は20年に延びます。また、平均寿命が伸び続けていることを考えると、今50歳の人が70歳を迎える20年後には、就業機会を確保する年齢がさらなる法改正で75歳まで伸びているかもしれません。仮にそうなれば、勤務期間は25年。35歳の人材を採用した後、定年年齢である60歳まで勤務してもらうのと同じ年数になります。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 もちろん、中には60歳を過ぎてまで働きたくないと考える人もいるはずです。しかし、背景はさまざまだと思いますが、60歳以上になっても働き続ける人は着実に増えています。総務省の労働力調査詳細集計を見てみると、60歳以上で21年に就業した人の数は1450万人。10年前の11年と比較して259万人、15年前の06年と比較すると497万人も多い数値です。

ミドル&シニアはまだまだ「厄介者」なのか

 ここまで50代の転職者比率が増える要因を考察してきました。ですが、今はまだミドル&シニア層の採用に積極的な会社は少数派です。「法律で決められたのだから70歳まで就業機会を確保せざるを得ない」と消極的な姿勢で対処し、厄介払いするかのごとく一定の年齢以上で一律に線を引いて、ミドル&シニア層に早期退職を促そうとする会社の方が圧倒的に多いと感じます。

 しかし、一定年齢以上で一律に戦力外と見なすような施策がやがて仇となるかもしれない切実な状況が、既に目の前に広がっています。これからは、50代以上のミドル&シニア層の戦力化が会社経営の行く末を左右することになるかもしれません。冒頭で紹介した記事にあったように転職市場でミドル層の人気が高まっているのは、その予兆ともいえます。

 定年年齢を60歳以上とするよう義務付けた改正高年齢者雇用安定法が施行されたのは、98年です。総務省の人口推計で、98年当時と直近のデータである20年の年齢構成を比較してみると、50歳未満と50歳以上の比率は以下のようになります。

総務省「人口推計」より筆者が作成

 50歳未満の比率は、98年に6割を超えていましたが、20年には5割強にまで下がっています。一方50歳以上の比率は3割台だったのが5割近くにまで上がっています。このグラフを見ても明らかなように、60歳定年が義務付けられたころとは50歳以上の比率が全く異なるのです。増減数と比率を表にすると、以下のようになります。

同前

 50歳未満の人口は1437万2000人と17.9%減少し、50歳以上の人口は1402万8000人と30.4%増えています。先に紹介した少子化社会対策白書の出生数推移を見る限り、50歳以上の比率は今後もさらに上がっていくと考えられます。ただでさえ総人口が減少傾向にある中、50代以上の人材を戦力化できない会社は、人材確保がままならない状況に陥る可能性が高くなるのです。

 日本の人口と年齢構成の現状および未来予測を踏まえると、ミドル&シニア人材の戦力化は、今後の会社経営の中でより重要度を増していくことになるはずです。一定の年齢で区切って早期退職を募集するような施策は、どんどん時代に合わなくなります。逆に、年齢にこだわらずに採用できるようになると、会社は戦力化できる人材の幅が広がり、働き手は35歳転職限界説をおそれることなく、年齢を重ねても新しい職場を見つけやすくなります。

乗り越えるべき大きな壁

 50代以上の転職促進を考える上では、まだ妨げとなる大きな壁があります。

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