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50代の転職後年収が上昇中 「35歳転職限界説」はもはや過去のものかミドル&シニア活用が企業の急務に?(4/4 ページ)

» 2022年02月28日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 形を崩しながらもいまだに影響力を及ぼしている、年功賃金という雇用慣行です。年功賃金は、転職したい50代以上の人材にも、50代以上の人材を採用したい会社にも、弊害をもたらします。

 冒頭で見たような人気のミドル層は、基本的にハイキャリア高スキル人材です。しかし、人口に占める年齢構成の推移などを考えると、50代以上の人材は、ハイキャリア高スキル層に限らず、これからあらゆる職務でより必要な存在になっていきます。

 ハイキャリア高スキルに当てはまらない職務で採用したい場合も、年功賃金の名残があると、同年代の社員とバランスをとるために相応の賃金を支払う必要があります。それが支払える間は問題ないのかもしれませんが、職務や能力に見合わない賃金を払い続ける経済合理性を欠いたお金の使い方は長続きしません。大手企業がこぞって早期退職を募り、終身雇用の維持が難しいと宣言しているのはその表われです。

 年功賃金にこだわる限り、会社はハイキャリア高スキルに当てはまらない50代以上の人材を採用しづらく、だからといって母数が減少し続ける50歳未満の人材を採用するのも難しい板挟み状態に置かれます。一方、50代以上の働き手は転職先を見つけにくく、結果として会社も働き手も共倒れすることになりかねません。

 年功賃金だと、若年層は実際の働きよりも賃金を低く抑えられ、ミドル&シニア層は実際の働きより高い賃金を受け取る傾向にあります。それを職務や役割、成果などに応じた賃金システムに変えて、年齢と賃金とのひもづけを断ち切る必要があります。しかし、賃金は生活に直結するだけに、生涯に受け取る賃金水準は維持しなければなりません。若年のころから実際の働きに見合うだけの賃金を受け取り、年齢が上がっても賃金は上昇させない。あるいは最初は年功賃金でも一定の年齢で上限を設定し、職務や役割、成果などに応じて賃金を支払うシステムへと切り替えるなど、生涯年収の水準は維持しつつ、賃金システムを根本から設計し直すことが必要です。

 今は春闘真っ盛りですが、労使間で賃金を何%アップさせるかを巡る攻防が続いています。賃金水準を上げるための折衝は必要なことですが、賃金システムを根本から変えるような議論が積極的に進められているようには見えません。賃金システムの再構築を保留したままでは、会社も働き手も身動きがとりづらく、活力が徐々に奪われていってしまいます。

 年齢構成の変化による影響は既に顕在化しており、これからさらに顕著になっていくことが予想されます。50代以上の人材を戦力化できるよう、しがらみとなっている構造を変えられるか否かは、今や全ての会社にとって事業存続に関わる最重要課題の一つなのです。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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