服部氏は、カスタマーサクセス職の採用を断念した1つ目の誤算として「顧客の成功の定義」について言及した。カスタマーサクセスの直訳は「顧客の成功」。つまり、顧客がそのサービスや商品を利用してよかったと思える状態を作ることといえる。
SaaSなどのtoBサービスであれば「収益拡大」が顧客の成功に当たる。一方、toCはどうだろう。「スナックミーであれば、月に1回自分好みのおやつが届くということにワクワク感を覚える人もいれば、食べた時に幸せを感じる人もいます。同封されているお便りを楽しみにしてくれている人もいるでしょう」(服部氏)
つまり、toCにおける顧客の成功パターンは複数存在するのだ。
2つ目の誤算は「成功体験への道筋が無限にある」ことだいう。サービスを利用すればするほど顧客の満足度が高まるのが理想のサービスだ。しかし、サービスの活用度合いが顧客の成功につながる可能性は、toBとtoCで大きく変わると服部氏は考える。
「例えば、toBだとある機能をある頻度で利用することで、劇的な効果があり、結果として解約率が下がることが明確になったとします。その機能を一定の頻度で利用してもらうことが顧客の成功と強い相関があることになります。一方、toCではそう簡単にはいきません。もちろん、相関の強い機能が発見されることもありますが、持続性がないことも多々あります」(服部氏)
テーマパークのパレードに対する来場者の満足度が高かったからといって、年中そのパレードだけを繰り返していたら満足度は低下するだろう。さまざまなコンテンツがあふれる世の中で、顧客の成功の定義が多岐にわたるがゆえに常に飽きさせない工夫が求められているという。
最後の誤算は「顧客への向き合い方」にあった。toBの場合、既存顧客営業に近しく、カスタマーサクセス担当者は1社専属体制で顧客の顔が見えていることが多いだろう。そのため、ミクロ視点での打ち手が可能になるという。サービス利用頻度向上を目指してA社の担当者に直接連絡し、打ち合わせの機会を設けることなどが考えられる。
しかし、toCはそもそも顧客数がtoBよりも圧倒的に多いため、個別最適な打ち手を取るのが難しく、どうしてもマクロ視点にならざる得ない。顧客の成功を正しく定義したうえで、それを最大限高められそうな施策をコンスタントに展開していくことが求められる。
SaaSとカスタマーサクセスは構造がシンプルで結びつきやすい。長期的に利用することで売り上げが増加していく事業モデルのため、顧客の成功の追求が売り上げに直結する。しかし、スナックミーのような一般消費者を対象にしたモデルでは、顧客の成功の定義が顧客によって異なることに加え、成功を作る変数が多すぎる。「これだけやっていればいい」という明確なアクションリストが存在しない、それがtoBとtoCのカスタマーサクセスの大きな違いといえるだろう。
採用できないのであれば、別の打ち手が必要になる。そこで同社は、全社カスタマーサクセス体制にかじを切り始める。
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