マーケティング・シンカ論

急成長サブスク企業、カスタマーサクセス職採用を断念した3つの”誤算” 応募は180人もいたのに、なぜ?全社カスタマーサクセス体制を採用(3/3 ページ)

» 2022年05月12日 08時46分 公開
[熊谷紗希ITmedia]
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カスタマーサクセスの中で「変えなかったこと」は?

 全社カスタマーサクセス体制を掲げ、CRM、マイページ改善や商品開発など5つのチームに分けた。もともとカスタマーサクセス職採用はコロナ禍で急増した顧客に対応するためだったというが、実際にどのような施策を講じたのだろうか。

 「新規顧客のニーズに応えることも大事ですが、既存顧客の満足度が下がるようなことはしないと決めていました。例えば、ボックスの中にはおやつを楽しんでいただくための冊子などを同封しています。おやつを食べたいだけの人はそういったものを無くして、価格を下げてほしいという人もいます。同封物を楽しんでくださっている方もいるので、今まで通りの運用を採用しました」(服部氏)

 スナックミーの魅力は”こだわりのおやつが毎月届く”だけではない。保存料不使用の健康的なおやつや、地域の食材を使ったおやつとの偶発的な出合いとワクワクを生む体験価値を含んでいる。冊子にはおやつの特徴や顧客がSNSに投稿した写真などを盛り込み、おやつに込められたストーリーを一緒に届ける。

ボックスに同封される冊子「3PMmm...」(画像:スナックミー提供)

 「どういうおやつなのかを理解してもらった上で食べていただいたほうが、サービスの価値を理解してもらえる」(服部氏)という狙いだ。コロナ禍で急増した顧客の中にはサービスにマッチしなかった人もいて、解約率は一時的に増加した。現在は落ち着いており、ある程度定着したという。

賞味期限切れから解約に

 マイページのUIUX改善、ユーザーインタビュー、LINEを活用したコミュニケーションなど「顧客の成功」に奔走する同社は、カスタマーサクセス施策の成功事例として「寄付の仕組み」を挙げる。

 解約顧客を対象にヒアリングを実施する中で「賞味期限が切れてしまったおやつを捨てるのが心苦しくて解約した」という声が多くあった。スナックミーのおやつは保存料不使用のため賞味期限が短いのが特徴。顧客が感じていた「価値」があだとなってしまったのだ。

 そこで、食べきれなさそうなおやつを返品すると全国の児童養護施設などに寄付される仕組みを取り入れた。返品分はポイントとして顧客に還元したところ、「自分が好きなおやつをみんなにも食べてほしいから寄付する」といった好意的な反応が得られた。返品用の封筒を同封したボックスとしなかったボックスでABテストも実施。数字は非公開とのことだが、実際に同封したほうが継続率が向上したという。

 オンライン上でのカスタマーサクセスに力を入れてきた同社だが、今後はオフラインにも力を入れていくと意気込みを見せる。

 「お菓子分野って特にECに向いていないと思うんです。かさばるし、価格もそこまで高くないので、コンビニやスーパーマーケットで購入するのが当たり前。ECを利用しない人たちにもサービスを知ってもらう働きかけが必要だと考えています」(服部氏)

 同社は現在、ロフトやコンビニ「ファミマ!!」などにも販路を拡大している。そして21年4月、東京都江東区に常設店「snaq.me 清澄白河」をオープンした。いきなりサブスクを申し込むのにハードルを感じている人、自分の好きなおやつを好きなだけ購入したい人などの利用を見込んでいる。

 そのほか、オンラインだけでは収集できない顧客の生の声や商品との偶発的な出合いが生まれる場になるよう設計していく。実際に、オープン2日で500人以上の来店があり、認知の拡大につながっている実感が得られているという。

常設店「snaq.me 清澄白河」をオープン(画像:スナックミー提供)

 toC向けのサブスクは商品の質だけでなく、その体験にも価値が置かれるが、重要度の比重は顧客によって異なるのが難しい点だ。「顧客体験はもちろん大切ですが、商品自体の改善は絶対に無視できない要素です。商品に対する信頼や満足があり、その上に体験が乗っかってくる、そういう構図になっていると思います」(服部氏)

 「おやつ」という言葉は江戸時代の中期、今の午後2時〜午後4時にあたる「八刻(やつどき)」に食べていた軽食が語源といわれている。服部氏はモノとして消費されるのは「お菓子」であり、その消費を通して顧客が体験する時間を「おやつ」と定義する。

 サブスクは売り切り型ビジネスと異なり、顧客と商品がリアルな場で接点を持つ機会が少ない。そのため、商品が手元に届いたときや商品を食べたときなどの”体験”で顧客を満足させられるかどうかが継続率のカギといえる。

 取材から、同社が特に体験づくりに力を入れていることが分かった。仕事や家事の間に小腹を満たすためだけの「お菓子」ではなく、飲み物を用意したり、皿に盛り付けたりして食べる時間を楽しむ「おやつ」として定着させる。そういった習慣化が、サービスに対する顧客のエンゲージメントを高め続ける秘けつといえそうだ。

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