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売り上げよりも営業利益 オラクル出身の「イトーキ社長」に聞く“オフィス3.0”の意義新しいかじ取り役(2/2 ページ)

» 2022年06月08日 07時00分 公開
[中西享ITmedia]
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会社に来るのが魅力的なオフィスを

――リモートワークが進むなど、企業はコストを削減するためにオフィスを減らそうとしています。その潮流の中で、どんな観点から新しいオフィスづくりを提案しようとしていますか。

 当社独自の「スマートオフィスコンセプト」を持っていて、これはテクノロジー×デザインでワークプレース・スタイルを変革しようというものです。しかし、経営者からすると、この変革のコンテクスト(文脈)は働き方改革です。

 出社する人数が減ったのでオフィスのフロアは削減するでしょう。しかし、オンラインで仕事ができることが分かり、そのことでメンタルの不調を訴える人も増えています。シニア社員はいいのかもしれませんが、若手は教育してもらう機会が必要な状況もあるでしょう。

 経営陣はあるタイミングで社員に出社してほしいと思ったときに、会社に来るのが魅力的でワクワクするようなオフィスを作る必要があります。われわれとしては、テクノロジー×デザインというやり方でオフィスを作り、経営者が求めるパフォーマンス、エンゲージメントの向上を体現しなければなりません。

――「スマートオフィスコンセプト」とは、具体的にどんなものなのでしょうか?

 「スマートオフィスコンセプト」は、いまは「オフィス3.0」イコールDXだと言い始めています。最初の「オフォス1.0」は、オフィス家具の製造と販売で、差別化要因は品ぞろえや価格競争でした。しかし価格の値下げによるチキンレースで疲弊します。それが「2.0」になると、いかに付加価値を付けられるかになり、より価値のあるオフィスの設計・構築が求められるようになりました。

 イトーキでは約150人のコンサルタント、一級建築士、空間デザイナーを抱えています。また、ワークスタイルを変えていく上で方法論となるものがあったほうが良いので、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)の創始者であるオランダのヴェルデホーエン(本社アムステルダム)とも提携しています。

 さらに「3.0」になると、デジタルが入ってきたこともあり、商材としてデジタルを掛け算して提供することを考えています。具体的には、イトーキが提供するオフィス什器(じゅうき)がIOTデバイスになれば、いくつものデータを捕捉することができます。

――社員の動きが全て把握できるオフィスシステムを作られたそうですが、そのメリットは何でしょうか。

 IOTセンサーを活用してオフィス内での社員の位置情報をリアルタイムで把握できる「Workers Trail」(ワーカーズトレイル)というアプリケーションをリリースしました。株式会社WHERE(東京都千代田区)のIoTセンサーをオフィス什器のいたるところに設置し、これをスマートフォンなどで検知するのですが、オフィス内の社員の動きを見える化することで、働き方に関してより有意義なデータを取ることができます。

 オフィス什器をIOTデバイスと考えることで、他社が取れないデータを取れるのがポイントです。社員の動きだけでなく、椅子にどれくらい座っていたか、といった人間工学的な生体情報も取れるなど、可能性が広がります。

 昨年の11月からこのシステムを発売し、顧客から問い合わせも来ています。まずは、当社のオフィスにこのシステムを実装して自社データを蓄積し、顧客に対してエビデンスを提供して販売につなげていきたいと考えています。

「Workers Trail」(ワーカーズ トレイル)は、株式会社WHEREが提供するIoTセンサー「EXBeacon(写真)」と、それを活用した働き方支援アプリ「EXOffice」をベースに構成。イトーキが提案する働き方に対する活動分析がしやすくなる機能を一部カスタマイズしたアプリケーションだ

どんな場所でも働ける

――異業種ともコラボレーションしているようですが。

 例えば、ある音響メーカーとのコラボレーションでは、収音マイクを什器に内蔵することにより、グループディスカッションの際に、発言者ごとの音声を拾い、さらに、その音声を解析することで、グループ討議で誰が議論をリードしていたかなどの分析をしています。今後もデジタル領域においては、ICT企業とのコラボレーションを積極的にしていくつもりです。

――その場合、対象者からみると、そこまで知られたくないという観点もあると思いますが。

 個人情報を特定しないことは技術的にできます。また、カメラなどが多く配置されていると、見られているという印象を与えるので、間仕切りや机の中にカメラを埋め込むことで、対象者側からは分からないようにできますから、そういった工夫ができるのがイトーキならではの強みになるのではないかと思います。

――働き方改革の視点からすると、「オフィス3.0」はどのように変わってくるのでしょうか。

 オフィスの中では働き方の目的に応じて移動するようになり、ワークプレイスとスタイルは、在宅、会社、あるいは「Work from anywhere(どんな場所でも働ける)」というようになります。その中で、同じところに長時間座っているよりも、移動すると生産性が上がるという結果が出ています。

 また、「3時のおやつ」とよく言われますが、3時ごろに休憩を取っているチームの方がパフォーマンスが高いというデータも出てきています。しかし、決まった法則があるわけではありません。当社でも、生産部門と営業部門では働き方が明らかに違いますし、個別の会社によっては事情が異なるので、そのニーズに応じた対応をする必要があります。

 「オフィス2.0」のときまでのように、オフィス家具を売ったらそれで終わりでなく、導入した後のことも重要です。これはIT業界で起きた、オンプレミスからクラウドに移ったのと近い流れだと感じています。「3.0」になると、異業種との境目がなくなり、ゲームチェンジが起きるので間口を広くしておくつもりです。

 いまはローエンドのオフィスで子会社を使って椅子や机のサブスクリプションのビジネスを、子会社を使って手掛けています。アイデア段階ですが、ハードも含めてオフィス空間も含めてサブスクすることもありかなと思っています。オフィス家具の世界は一見、サブスクと無縁のようですが、チャンスはあると思っています。

新卒で採用して育てる

――魅力的なオフィスを作るため、オフィスのデザインが注目される中で、イトーキにはデザインに関係する社員が多いようですが、その狙いは何でしょうか。

 当社のデザイナーは優秀で、オフィス業界の「アカデミー賞」ともいわれている一般社団法人ニューオフィス推進協議会と日本経済新聞社が共催している「日経ニューオフィス賞」というものがあり、12分野で賞が贈られますが、昨年、当社はそのうち5つの分野で賞を獲得しています。

 コロナ禍でニューノーマルになり、オフィスの重要性が高まりました。これまではオフィスのKPIはコストでしたが、今は働き方改革で、魅力的なオフィスのデザインが重要になってきました。

 デザインに関係する社員は150人いますが、新卒が大半で中途採用はあまりしていません。新卒で採用して育てるという考え方です。建築系と美大系の2種類あって、これがうまくミックスすることが重要です。デザイナーはイトーキの宝です。若い感性が重要な職種ということもあり、若い人が多く半数が女性です。

――絵や彫刻など現代アート作品をオフィスづくりに活用しているようですが、そのメリットは何でしょうか。

 魅力的なオフィスをつくるうえでの付加価値として、現代アート作品を取り扱っているアートプレイスという子会社を持っています。若いクリエイターの現代アート作品をオフィス内に置くことに対する評判は良くて、引き合いが多く来ています。アートは社員のコミュニケーションツールにもなり会話が増えて、良い効果を生んでいるというデータも取れています。

スピード感を重視

――イトーキに来て、オラクルの時と比べて足らない点を感じたことはありますか。

 スピード感です。日本企業がそうなのかもしれませんが、アクションを起こすときに「構え」「狙え」「撃て」の、「狙え」の時間が長い。IT業界では、最新技術をキャッチアップしようとドッグイヤーで経営しているので、まずは「構え」「撃て」で、外れていたらアジャストして狙いを定めなおしてすぐにまた「撃て」、と言ってきました。

 「オフィス3.0」の世界になって、これからは早く撃つことが一番重要になるので、社員には「スピード感を持つように」と口を酸っぱくして言っています。その場合、当事者は「勇気」をもってアクションを起こすことが必要で、多少ずれていても良いから、早く撃たせるための「勇気」を社員に持たせることが必要です。

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