「Internet Explorer」サポート終了で、東京・調布市「なんで急に」報道 自治体DXに必要な“たった1つ”のこと(5/7 ページ)

» 2022年06月18日 07時00分 公開
[樋口隆充ITmedia]

難関大生の約6割「国家公務員の仕事に魅力感じず」 人事院調査

 DXの遅れは、国民・住民向けサービス充実や職員の業務効率だけでなく、長期的な視点でみると、次世代を担う公務員の人材確保に影響が出る。人事院が3月に発表した、国家公務員の業務に関する意識調査では、東京大や京都大、一橋大など難関15大に通う大学生の58.4%が「(国家公務員の)業務内容に魅力を感じなかった」と回答した。

photo 人事院の意識調査

 キャリア官僚の登用試験「国家公務員採用総合職試験」(大卒程度)の21年度の申込者数も計1万5883人(春・秋)となり、現行の試験方式となった12年度以降、過去最低を記録した。学生の間で「公務員離れ」が進行しており、人事院の担当者も取材に対し「危機感を持っている」との認識を示す。

photo 「国家公務員採用総合職試験」の21年度の申込者数(出典:「国家公務員採用総合職試験」実施状況

非効率継続で人材確保に影響 行政サービス低下にも

 こうした背景には、非効率的な業務環境で長時間のサービス残業を余儀なくされるなどの状況があるとみられる。快適な業務環境を実現しなければ、次世代を担う優秀な人材が流入せず、サービスの低下を招く。

 自治体視点でみると、サービスの低下は「街の魅力度」にもつながる。優れた行政サービスや施策を実施できなければ、その自治体は若年層にとって魅力的に映らない。若年層を含めた労働力人口の流出が続けば、相対的に人口は減少し、高齢者の割合が増加することになる。

 その結果、税収が上がらないにも関わらず福祉関連事業の支出ばかりが増加し、自治体財政を圧迫。人口減→税収減→サービス悪化という「負のスパイラル」から抜け出せなくなり、そうした自治体には当然ながら優秀な人材は集まらない。

 IEのサポート終了を受けた記事の読者の反応を見ても「自治体の入札サイトがIE対応なので、IEを使わざるを得ない」などのコメントが散見される。自治体側が非効率なシステム環境を改善しなければ、その影響は事業者側にも波及する。

 新たな取り組みに失敗した結果、行政側を“袋叩き”にするような報道の仕方にも問題はあるものの、だからといって、何も策を講じなければ、遅々として自治体のDXは進まない。

4630万円の給付金誤入金の自治体 「フロッピーディスク」が現役

 山口県阿武町で発生した4630万円の給付金誤入金では、金融機関との入金データのやり取りに「フロッピーディスク」(FD)が使用された点も注目された。入金を受け付けた山口銀行は、21年5月に、FDなどによる振り込みや口座振替依頼データの授受の新規受付を停止している。

photo 山口銀行のプレスリリース

 同行は取材に対し「21年5月以降、FDを利用するお客さまには別の手段への移行を案内しているが、継続要望があれば対応せざるを得ず、全廃は難しいのが実情」と話している。役所側の都合に、民間企業が巻き込まれている一例といえる。

photo フロッピーディスク(提供:ゲッティイメージズ)

 こうした事例もDXの遅れによるものだろう。踏み込んだ言い方をすれば「できない理由を考える」「前例を踏襲すれば、在職中の責任を回避できる」といった、行政職員の潜在的な“自己保身”の蓄積が招いた産物ともいえるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.