せっかくDX人材を育成しても、外部に流出してしまっては人材への投資が無駄になってしまいます。したがって、DX人材が働きやすい環境を構築し定着をさせることが育成と同じく重要です。
具体的には、DX人材が定着・活躍するために3つの軸(処遇・組織体制・労働環境)の観点で整備します。1つ目の「処遇」においては、DX人材の市場価値と成果がきちんと処遇に反映できる制度(大きな権限と責任を付与し、市場価値に沿った高い水準かつ変動幅の大きい報酬で処遇するなど)を設けること。
2つ目の「組織体制」については、DX人材が活動しやすい組織体制(既存の組織内にDX人材を置くと組織の力学に左右されることが多くなるため、経営直下に近い形で横串のDX組織を新設することで既存事業と協力できる体制)を構築すること。
最後の「労働環境」においては、DX人材の特徴としてワークライフバランス(仕事のペース、業務負荷、勤務時間、場所)を重視する傾向にあります。
最近でもグローバル企業の技術者が自社のリモートワーク制度が後退することを理由に退社した、大手日系メーカーで原則出社に戻すと発表されたことで転職市場での人気が後退した、というニュースが大きく報道されました。テレワークやフレックス制度といった、より柔軟な働き方を可能とする環境が整備されていることはもはや当たり前であり、コロナ禍前に戻ることはない不可逆な変化だと捉えるべきです。以上の3軸を踏まえた制度・組織改革も人材育成施策と併せて検討することが必要です。
上述の通り、DX人材の育成にあたっては、スキルアップなどのデジタルスキルの習得や実践的なトレーニングといった、「手段」から先に検討するのではなく、まずは自社にとって必要な人材要件と人材ポートフォリオを策定し、それにより可視化されたギャップから最適な方法(調達、育成、配置)を特定するという順番が重要です。
VUCAの時代において、事業やビジネスにまつわる環境は一瞬で変わってしまいます。そのような環境下で事業戦略の実現に必要な人材を見定めて、状況に見合った形で対策を打っていくことが大事であると考えています。
米国の思想家であったエマーソンは「私たちの強さは弱さから生まれる」という言葉を残しました。自社の人材における弱みをきちんと把握して、それを強みに変えていく。そういった発想が、DX人材育成でも必要なのではないでしょうか。
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