すごいGRMNヤリス、素人同然な販売政策(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2022年07月04日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

尋常でない走りの幅広さ

 コーナーリング時にタイヤのグリップを全て横方向だけに使いたければ、曲がっている間はブレーキやアクセルを同時操作しない。言われてみれば当たり前だが、そうやってコーナーの奥で、ステアリングだけで一気に曲がり、早くクルマの姿勢を作り終わって、全開で踏める状態で脱出する。そういう走り方もお手の物だ。少なくともクルマは。

 筆者のようなオールドタイプはそういう運転は馴染みがないので、これを試すときはいつも怖いし、どうやると上手くいくのかが完全には分かりきらない。できればブレーキを引きずりながら、アンダーを消して進入し、旋回姿勢を作ってからアクセルで前後加重をコントロールする昔ながらの乗り方の方が落ち着く。

 で、GRMNはといえば、そのあたりの幅広さが尋常ではないので、どっちのやり方でも余裕綽々(しゃくしゃく)で曲がっていく。そして速い。ちなみに3周目はクリッピングから先で、ヨーが収束する前からかなり無理矢理にアクセルを踏んで、その分ハンドルを大きく切って強引にアンダーをねじ伏せるという無茶な運転もした。想定しているのはこの55Rで前のクルマをかわして、次の25Rに先行して飛び込むための加速競争状態である。そんな乗り方で多分タイヤは激しく摩耗したとは思うが、不安定になることもなくキチンと付いてくる。

 とにかく融通が利く。スイートスポットが広いのだ。その証拠といっては何だが、これだけいろいろ試してみて、タコ踊りはおろか、大きくカウンターを当てた記憶がない。というかホントの微修正以外、ハンドルは切り増していくだけでほぼ済んでしまったのではないかと思う。

 どうしてそこまで自在なハンドリングに仕立てられたのかといえば、カローラスポーツで出場しているスーパー耐久(S耐)からのフィードバックがあったからだ。S耐は最長では24時間の耐久レースまであり、当然ドライバーが交代制になる。超一流ぞろいのトヨタワークスのプロドライバーと、ハイアマチュアのモリゾウ選手(豊田章男社長)が同じクルマを乗り換えて走るわけだ。

 ちなみにモリゾウ選手は、決して遅いわけではないが、本職の超一流と並べれば、そこに差があるのは当然だ。いろいろな運転スタイルやスキル、レースの状況に合わせて作り込まないとマズい。そういうノウハウが全部フィードバックされている。

 ちなみに、そのスイートスポット拡大の実現に最も効果があったのは何かと聞いたら、「ボディ剛性です」だそうで、そりゃまあ聞いてみれば当たり前なのだが、これでもかというほどのスポット増しと接着材の霊験あらたかな効果によって、どんな乗り方をしても自在に受け止める超高剛性シャシーができ上がったのである。

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