すごいGRMNヤリス、素人同然な販売政策(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2022年07月04日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

サーキットで走らせると……

 まずはサーキットだ。シートに座ると、割と普通のヤリスである。ナビがないこと、それとフルバケットシートに4点式シートベルトが装備されているくらいで、ぱっと見では、ワンオフのスペシャルマシンという感じはあまりない。個人でサーキット仕様にカスタマイズしたらこうなるだろうくらいの印象だ。

 6段のMTで1速を選び、ピットロードをゆっくりスタートする。強化クラッチのせいで多少ミートの時のジャダーはあるが、ノーマルと比しても扱いにくさはさほどない。むしろ拍子抜けするくらい普通だ。

 ピットロードをゆっくり加速している間も、こうしたマジ系のスポーツ仕様にありがちな、胃袋が揺すられるような突き上げも無し。むしろ乗り心地はかなり良い。絶対的な硬さとしては多少硬くなっているかもしれないが、総合的な乗り心地はむしろフラットさという意味で、ノーマルのヤリスハイブリッドより良いと思う。良いアシが入っている感じが如実に伝わって来る。

 1コーナーに向けてアクセルを開けていく。まあ言うまでもないが速い。1.6リッターから272PS/390N・mという性能から分かる通り、速いと言っても暴力的加速というわけではないが、無用な威圧感を感じないのは、クルマ全体が軽く、コンパクトで、しかも金属インゴットであるかのようなとてつもないボディ剛性を備え、そこに微細入力からスムーズに動くしなやかな脚が組み合わさっているからで、パワーを十分に御するたけのシャシー能力があるからだ。そのあたりでもうトンでも無いものを運転している感覚はひしひしと感じる。

袖ヶ浦フォレスト・レースウェイのコース図(Webページより)

 90度に曲がる1コーナーを抜けると、短い直線から95Rを挟んで裏のストレートへとつながるのだが、ここはいくらでも踏んでいけるコーナーで、だからこそ普段は飛ばさない。速度が上がりすぎてリスクが高いからだ。ところがここで「やっちゃって良い」気持ちになってくる。かろうじて理性を働かせてスロットルを戻して70Rへ。ここはスピードが乗った状態から70Rをクリアするために減速して、その先で25Rに合わせて二段階で減速する。イメージとしてはひとつ目の70Rはある程度大胆に、そして次の25Rは速度を落として姿勢をしっかり制御する必要がある。

 その二段階に曲がりながらの強めの減速をGRMNヤリスはスイスイとこなす。しくじると曲がりきれなくなって大失速するここを、まさに鼻歌交じりで曲がって行く。

 そこから加速して、今度は逆バンクの付いた100R、70R、60Rと、明確な減速ポイントが無いまま、前後加重を上手くコントロールしながらアンダーを消していかなかればならない嫌な場所だ。並のクルマだとフロントが負けないまでも、前加重を掛けるとその分加重が抜けたリヤがズルズルと滑り出して、速度を落とさなければならなくなる。それを全く意にも介さずに、舵角を入れさえすれば安定して曲がっていく。なんだこりゃ?

 100Rを高速をキープして抜けて、次の55Rは気分としては第1ヘアピンである。ここに少し速目の速度で放り込んで挙動を見る。驚異的なのはブレーキ時の姿勢の安定で、まさに巌(いわお)のようだ。速い速度で突っこんで、強くブレーキを踏んでいるので、当然荷重が抜けたリヤが流れ出すのだが、その流れ方が、まさにスムーズでリニア。流れる量と速度はブレーキ踏力でいかようにもコントロールできる。ちなみに次の周回では、ラインを鋭角目にとって、ブレーキを残さずに、舵角だけで曲がった。今のレーシングドライバーの乗り方の真似である。

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