クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

セダンの再発明に挑むクラウン(1)池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/8 ページ)

» 2022年07月18日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

15代目クラウンが採用したデザイン

 さて、閑話休題。15代目はどうか? これは不思議なことにフロントフェンダー後方から3本のプレスラインが基点を違えて入る。フロントからリヤまでを水平に見せるラインは存在しない。

15代目クラウン

 グラフィックとしては、サイドウィンドー全体の三日月型を印象的に見せたいことが優先されている。それはつまり弧を描くウィンドー上端のラインがデザインの主役だということだ。この手法はセダンのそれではなく、クーペのやり方。ドアオープニングには一生懸命配慮した形跡が見えるが、少なくともセオリー的には、セダンとして一級のデザインとはいえない。

 ただし、これは意図してやったことでもある。トヨタは競合他車がどんどんクーペライクセダンになっていく中で、14代目まで必死にカッチリしたセダンデザインを守り続けた。しかし残念ながらそれが評価されてセダンが復権することはなかった。客が買ってくれないものを作っても仕方がない。

 だから、ある意味苦し紛れに、他社のやり方をフォローしてみたのが15代目のクラウンだった。つまりどうせエアボリュームでミニバンやピープルムーバーやSUVに勝てないのならば、せめてクーペ型の流麗なデザインでと考え、そのために清水の舞台から飛び降りて、セダンとしての半人前に甘んじた。

 おそらくその決定は相当怖かったのだと思う。そしてちょうどそのタイミングで、まさにGA-Lプラットフォームが登場した。だからこそ15代目クラウンはニュルブルクリンクを走り込んで、クラウン史上類例を見ない「走りのセダン」へと仕立て、リヤシートの半人前を打ち消そうと躍起になったのである。

 「スペースではミニバンと戦えない→デザインと走りに振ってみる」。そういうトライアルでデビューしたのが15代目クラウンだった。いずれにしてもいまさら「どセダン」を作ってもそこに客がいないことは先代で証明済みである。片道キップであったとしても飛んでみるしかなかったのは事実だろう。

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