さて、閑話休題。15代目はどうか? これは不思議なことにフロントフェンダー後方から3本のプレスラインが基点を違えて入る。フロントからリヤまでを水平に見せるラインは存在しない。
15代目クラウン
グラフィックとしては、サイドウィンドー全体の三日月型を印象的に見せたいことが優先されている。それはつまり弧を描くウィンドー上端のラインがデザインの主役だということだ。この手法はセダンのそれではなく、クーペのやり方。ドアオープニングには一生懸命配慮した形跡が見えるが、少なくともセオリー的には、セダンとして一級のデザインとはいえない。
ただし、これは意図してやったことでもある。トヨタは競合他車がどんどんクーペライクセダンになっていく中で、14代目まで必死にカッチリしたセダンデザインを守り続けた。しかし残念ながらそれが評価されてセダンが復権することはなかった。客が買ってくれないものを作っても仕方がない。
だから、ある意味苦し紛れに、他社のやり方をフォローしてみたのが15代目のクラウンだった。つまりどうせエアボリュームでミニバンやピープルムーバーやSUVに勝てないのならば、せめてクーペ型の流麗なデザインでと考え、そのために清水の舞台から飛び降りて、セダンとしての半人前に甘んじた。
おそらくその決定は相当怖かったのだと思う。そしてちょうどそのタイミングで、まさにGA-Lプラットフォームが登場した。だからこそ15代目クラウンはニュルブルクリンクを走り込んで、クラウン史上類例を見ない「走りのセダン」へと仕立て、リヤシートの半人前を打ち消そうと躍起になったのである。
「スペースではミニバンと戦えない→デザインと走りに振ってみる」。そういうトライアルでデビューしたのが15代目クラウンだった。いずれにしてもいまさら「どセダン」を作ってもそこに客がいないことは先代で証明済みである。片道キップであったとしても飛んでみるしかなかったのは事実だろう。
- 日本のクラウンから世界のクラウンに その戦略を解剖する(2)
1955年のデビュー以来67年15世代に渡って、クラウンは日本国内専用モデルであり続けた。しかし国内のセダンマーケットはシュリンクの一途をたどっている。早晩「車種を開発生産していくコスト」を、国内販売だけで回収することは不可能になる。どうしてもクラウンを存続させていこうとすれば、もっと大きな世界のマーケットで売るしか出口がない。
- なぜ、そうまでしてクラウンを残したいのか?(3)
それほどの大仕掛けをしてまで、果たしてクラウンを残す意味があるのかと思う人もいるだろう。今回のクロスオーバーを否定的に捉える人の中には、「伝統的なセダン、クラウンらしいクラウンが売れないのなら、潔く打ち切ればいい。クラウンとは思えないクルマに無理矢理クラウンを名乗らせて延命する意味はない」という声も少なからずあった。
- SUVが売れる理由、セダンが売れない理由
セダンが売れない。一部の新興国を除いてすでに世界的な潮流になっているが、最初にセダンの没落が始まったのは多分日本だ。そしてセダンに代わったミニバンのマーケットを、現在侵食しているのはSUVだ。
- 見違えるほどのクラウン、吠える豊田章男自工会会長
2018年の「週刊モータージャーナル」の記事本数は62本。アクセスランキングトップ10になったのは何か? さらにトップ3を抜粋して解説を加える。
- え!? これクラウンだよな?
トヨタのクラウンが劇的な進化を遂げた。今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にあるのだ。
- プレミアムって何だ? レクサスブランドについて考える
すでに昨年のことになるが、レクサスの新型NXに試乗してきた。レクサスは言うまでもなく、トヨタのプレミアムブランドである。そもそもプレミアムとは何か? 非常に聞こえが悪いのだが「中身以上の値段で売る」ことこそがプレミアムである。
- トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)
前回はGRMNヤリスがどうスゴいのかと、叩き売り同然のバーゲンプライスであることを書いた。そして「販売のトヨタ」ともあろうものが、売る方において全く無策ではないか? ということもだ。ということで、後半ではトヨタはGRMNヤリスをどう売るべきだったのかを書いていきたい。
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