クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

セダンの再発明に挑むクラウン(1)池田直渡「週刊モータージャーナル」(8/8 ページ)

» 2022年07月18日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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MIRAIのストレッチのクラウン・セダン

 ではセダンらしい形は諦めたのかといえば、そうではない。そこには次なる伏兵「クラウン・セダン」が用意してある。Aピラー付け根にわずかに矛盾があるものの、そこから後方へは見事に真っ直ぐな水平ラインが描かれており、文法としては明らかにセダンのそれだ。ハッチバックではなく、MIRAI同様にトランクリッドが存在しており、伸びやかさと風格という意味では、セダンの核をしっかり受け継いだデザインである。

【訂正:7/19  初出で「実はリヤゲートを持つ5ドアハッチバックボディなのだが」と書きましたが、これは間違いでした。スラントしたテールを持ちますが、ハッチバックではなく、MIRAI同様にトランクリッドが存在しております。お詫びし訂正いたします。】

16代目となる今回のクラウン・セダン

 さて、このクルマ、ひと目見て多くの人が分かる通り、MIRAIのストレッチである。トヨタは頑なに押し黙っているが、前輪とフロントドアの間を見ても明らかにFR。ボディ全体のシェイプはどこからどう見てもMIRAI。普通に考えれば、現在旧来型のセダンがしっかり売れるマーケットは中国だ。そして今、中国政府はFCVの普及を強力に推し進めようとしている。トヨタとしてもFCVを普及させようと思ったら、いつまでもMIRAI一台というわけにはいかない。

 つまりこのクラウンセダンは、おそらくはFCV戦略の二の矢でありつつ、同時に中国攻略モデルでもある。MIRAIは巨大な水素タンクをどう収めるかに苦労しており、後席が狭かった。それを解決するためにホイールベースを延長して、後席のスペースを確保したモデルこそこのクラウン・セダンである。

クラウン・セダン

 さて、この2台に共通するのは、セダンのリヤシート環境を向上させるところにあったといっても良い。そのためのパッケージのアプローチとして、高さを使ったクロスオーバーと、長さで解決したセダン、そう見ることも可能だろう。

 さて、だいぶ長くなった。何となく書き込むタイミングがなくしれっと書いてしまったが「おいおい、国内専用だったクラウンを輸出するのか?」と驚いた方もいるだろう。その通り、実は今回のクラウンは4つのボディタイプで、それぞれニーズやエネルギー事情の違う国や地域で売るグローバルカーなのだ。

 40の国や地域で合計20万台を売るというその壮大な計画がうまくいくかどうかはまだ分からない。そのための戦略はあとの2台を分析しながら続編で書いていきたい。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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