「54歳から管理職」も──“働かない60代”を生ませない、4社の努力改正高齢法の実情(2/3 ページ)

» 2022年08月10日 07時00分 公開
[溝上憲文ITmedia]

年齢にとらわれない評価制度の、大手医療機器メーカー

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

 一方、再雇用制度下であっても評価制度などを駆使することで組織の活性化を図っている大手医療機器メーカーもある。

 同社は65歳まで就業することを踏まえ、50代社員の意欲が削がれることを理由に08年に役職定年制度を廃止した。制度の廃止によって結果的にシニア世代の働く意欲も高まり、54歳で管理職登用試験に合格する社員も誕生したという。

 同時に、意欲と能力の発揮を促す施策として、上級職に「等級更新制」を導入した。等級更新制とは、等級昇格後に一定の任期を設定し、その間の貢献度を定期的にレビューし、任期中の評価が標準以上であれば任期を更新する。一方、評価が標準以下であれば更新試験を受験し、その結果で再任または降格を決定する仕組みだ。

 また再雇用を希望する人については、定年の2カ月前に「職務内容確認シート」を用いて本人と上司が面談し、再雇用後の職務・役割を確認し、契約書を締結する。処遇は定年前の役職に応じて一律に決まり、現役時代に比べてベースとなる基本給は低くなるが、個人業績と会社業績を反映した賞与を半期ごとに支給することで働く意欲を後押しする。

 特に営業など販売計画を持つ社員の支給額は高めに設定するなど、メリハリをつけている。また、部門長経験者などを専任の「キャリアアドバイザー」に任命し、再雇用社員の相談窓口の担当として全事業所を巡回し、個別面談を実施するなどモチベーションを喚起する地道な活動も実施している。

「AI技術者×ベテラン社員」で技術力を高める、ダイキン工業

画像はダイキン工業の公式サイトより

 ベテラン社員の新たなスキルの修得の支援も不可欠だ。空調機器大手のダイキン工業は21年4月から希望者全員の70歳までの再雇用制度を導入した。

 21年度の同社の人員構成は56歳以上が全従業員の20%(1867人)を占めるが、30年度は25%(2787人)を占めると予測。ベテラン層の活躍推進に向けた取り組みを行っている。

 21年4月以降、約500人の再雇用者全員を対象に1年間かけて研修を実施した。スキルなどこれまで大事にしてきた自分の強みをもう1回振り返り、今後組織の中でどういう役割を果たしていきたいのかについて、グループ単位でディスカッションしながら考える1日研修を行った。現在は上司サイドにそれを伝え、現場で活躍できる舞台を工夫するフェーズに移っている。

 また同社はAI・IoT人材を23年度末までに1500人育成する目的で社内ユニバーシティーの「ダイキン情報技術大学」を設立したことで知られるが、若手のAI技術者とベテラン社員との協業も積極的に促進している。

 例えば、エアコンの故障予知に関して、これまで発生した特定の故障箇所は現場に出向かないと分からなかったが、蓄積されたデータを基にAIを駆使してベテランと若手がタッグを組んでそれぞれの強みを生かし、ピンポイントで故障箇所を特定する試みを行っている事例もある。

 従来の高齢社員の役割は培ったノウハウを後輩に教え、後輩は技術の進歩を取り入れながらも自分の経験値で次の世代に技能伝承していくというものだった。しかし今は開発プロセスの効率化や熟練技能の標準化などさらに進化しつつあると言う。

 同社の人事担当者は「例えば溶接の一種の『ろう付け』という作業では、火で炙ったときの色、材料の溶ける時間など、勘と経験値で仕上げるベテランがいる。それを今では色やプロセスを機械に覚えさせることで、若手が同じことを再現できるようになることを目指している。しかし一方で、原理原則を受け継ぐ人がいないと、機械に頼るだけではスキルが陳腐化していく。つまりベテランが自分の経験値から教える段階から、AIという新しいツールを活用することで、ベテランが教えるべき内容が何であるかが明らかになりつつある」と語る。

 すでにベテランと若手との協業によって驚くような製品やサービスが出来上がるという事例も出てきているという。今後、あらゆる産業においてデジタル化の推進やウィズコロナなどの環境変化によってビジネスモデルの変化のスピードもより速くなりつつある。若手・中堅社員にとどまらず、全世代を対象にしたキャリア自律の支援に向けた企業の取り組みが一層に重要になる。

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