鉄道貨物の諸問題解決が急務、運送業界「2024年問題」に備えよ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/10 ページ)

» 2022年08月19日 09時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

なぜ通運会社は鉄道貨物を選ばないか

 国土交通省によると、国内貨物輸送による鉄道のシェアは約1%。たった1%! ちなみに自動車は9割以上と圧倒的。残りは海運。わずかに航空となる。戸口から戸口への両端はトラック輸送になり、駅や港、空港へもトラックが必要だから、トラック輸送が多いとはいえ、鉄道が少なすぎる。貨物輸送モードを選択できる事業者は通運会社だから、鉄道貨物を選ばない理由は通運会社にある。

 なぜ鉄道貨物は選ばれないか。その答えは国土交通省が関係者から聞き出している。今年3月に招集された「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」で、4回にわたり関係者にヒアリングを行ない、7月の第5回で中間とりまとめを作成した。「中間とりまとめ」は検討会における「一定の結論」だ。法案作成など明確なゴールがない場合は「中間とりまとめ」となる。

 この「中間とりまとめ」については「国交省が貨物新幹線の検討開始」として大きめに報じられた。しかしこれは「中間とりまとめ」の提言の中では些末な部分だ。「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」のヒアリングでは、鉄道貨物輸送に対する信頼、環境性能、大量輸送、コストに期待する一方で、荷主のニーズに合わないという不満が続出していた。そこをしっかり改善しないと、鉄道貨物のニーズは高まらない。貨物新幹線は未来へのステップだから、まずは1段目の在来線貨物輸送の改善が必要だ。

 例えば、検討会の第2回でヤマト運輸から「ダイヤとニーズのアンマッチ」が指摘された。宅急便が翌日配達を約束できる21時に集荷しても、載せる列車がない。「22時〜23時台のダイヤの拡充と、それに対応した発駅の集荷/着駅の配達力確保」を要望している。天候に対する脆弱性(ぜいじゃくせい)として、長距離区間の遅延発生率が高い。リカバリーの見通しが遅い。要望は「貨物列車の速やかな現在地把握と代替輸送対応の情報共有、窓口の1本化」。

ヤマト運輸が指摘する貨物列車とダイヤの問題点。JR東海の資料も参照すると、顧客にとって都合のいい時間帯は線路保守時間になってしまう(出典:国土交通省、今後の鉄道物流のあり方に関する検討会 ヤマト運輸資料

 日本通運から「鉄道固有の輸送振動や荷役衝撃などによる貨物事故への対応」「軽量コンテナ開発または最大積載重量の一部緩和」「駅構内の待機時間の緩和」。三菱商事から「国際物流との結節点強化、海上コンテナに対応した鉄道輸送」などが求められた。

日本通運がまとめたJR貨物への要望。厳しい指摘も期待の表れ(出典:国土交通省、今後の鉄道物流のあり方に関する検討会 日本通運資料

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