「後継者不足」は大企業の方が深刻? 時価総額5兆円「日本電産」が渡せないバトンの行方古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2022年09月02日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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後継者、「日本人」から探すべき?

 大企業の後継者不足は、時価総額が大きくなればなるほど問題になりそうだ。同じく一代で大企業を築き上げたユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正氏、ソフトバンクの孫正義氏のような、いわゆる「カリスマ」によって時価総額にプレミアムがついた企業は少なくない。

 一方で、世界に目を向けてみると、起業家として世界一のカリスマ的存在であったスティーブ・ジョブス氏が率いていたアップルは、彼のCEO退任後も世界一の時価総額を誇っている。

 また、グーグルを運営するアルファベット、マイクロソフト、アマゾンの創業者も現在は退任しているが、それぞれIT巨人としての地位が揺らいでいない。また、これらの米国企業の後継者として注目を集めているのがインド系のCEOである。

 マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、アルファベットのスンダー・ピチャイCEO、ツイッターのパラグ・アグラワルCEOもインド系だ、他にもアドビやIBMをはじめとした巨大企業のCEOにインド系の経営者が選ばれるなど、米国では人種や民族に捉われない後継者選びを行なっている様子が伺える。

マイクロソフトのサティア・ナデラCEO(左)もアルファベットのスンダー・ピチャイCEO(右)もインド系だ

 一方、日本全体の性向として、外国人の高度人材を起用するという動きは未だ発展途上だ。確かに、飲食店やコンビニエンスストアなどでは外国人労働者の数が増えつつあるものの、経営層に外国の高度人材はそれほど浸透していない。

 日本政策金融公庫の論集第51号(2021年5月)によれば、外国人における中小企業経営者数の割合は0.744%で、推計で全国70万人中、5232人ほどしか存在しないという。上場企業でも外国人がCEOとなっているのは、持株比率が散逸したいわゆるサラリーマン社長の会社であるパターンが多く、創業者が後継者として外国人を指名するような例は極めて稀だ。

 一方で、外国人の受け入れに寛容な移民大国米国では、外国人経営者が10%を超えている。近年において新しく米国で中小企業を創業した経営者の30%程度は、米国にとっての外国人経営者が占めているようだ。

 これは、“シリコンバレー”のような、身分や人種に関わらず成功を手にできるアメリカンドリームを体現した聖地が存在するというブランディングも大きい。また、直接金融の割合が高いことで、VC産業やエンジェル投資周りの理解や活用が進んでいるといった「起業のしやすさ」もその要因のひとつだろう。

 このように考えると、後継者を日本人から選ぶということは、初めの選択肢から世界の70人に1人に絞り、そこから1兆円クラスの経営を任されて卒なくこなせる人材がいればいいという、やや贅沢な選び方ともいえるのではないだろうか。

 外国人に任せることに抵抗があるのであれば、外国人経営者にとってはそれならば米国やシンガポールに行けばいいだけの話である。「選ぶ側と思っていたら、選ばれなくなった」ひいては日本の国際競争力が落ちた、ということにならないよう、企業の後継者選びは中小、大問わず、世界的な視野に立って官民一体で取り組んでいくべきではないだろうか。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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