「後継者不足」は大企業の方が深刻? 時価総額5兆円「日本電産」が渡せないバトンの行方古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2022年09月02日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

後継者“損切り”カルチャー

 日本電産の創業者である永守重信氏の後継者として有望視されていた元日産の関潤氏が、10月までに退任するというニュースが市場関係者の間で広がりをみせた。

 しかし、このような兆候は4月の時点である程度観測されていた。というのも、関氏は4月21日の時点で最高経営責任者(CEO)から、最高執行責任者(COO)に異動していたからだ。同じタイミングで永守氏が代表取締役会長からCEOに返り咲いたことから、実質的な降格人事ではないかと物議を醸していた。

 当のリリースでは、「永守による経営指導体制のもと、日本電産本来のスピード感ある経営を行い、2030年売上10兆円の実現をより強固なものにするべく邁進(まいしん)していきます」と記載されていた。

CEO降格に際し、本来のスピード感を伴っていないと公式に発表

 裏を返すと関CEO体制下の日本電産は、本来のスピード感を伴っていないという意図があるとも取れる。IRでCEOが実質的に批判されるということは、やはり名義上はCEOといえども、その上に更なる権力者がいることが示唆される。微細な表記から、関氏が内側からの突き上げに苦心していた様子も浮き彫りになってくる。

 関氏はつい数か月前こそ「逃げる気は全くない」と永守氏の後継を再び全うしたい意気込みを示していた。しかし、世界経済の停滞もあり、22年は半年間営業赤字となってしまった。

 その結果、退社報道につながったのではないだろうか。ちなみに、日本電産のIR部はこの発表を「当社が発表したものではなく、また決定した事実もございません」としているものの、通例であればこのようなパターンでの報道は一定以上の信頼度は担保されているものである。

 日本電産は、関氏だけでなく、さまざまなプロ経営者を引き抜いたり、叩き上げの人材から抜擢(ばってき)してみたこともあるが、関氏を含めた4名の後継候補はいずれも永守氏の要求を満たせなかったようだ。彼らはそれぞれ退社、降格、ないしは後継でないポジションに落ち着いており、その“損切りサイクル”はおおよそ2年程度であるとみられる。

 新社長となる小部博志氏は永守氏の創業期から事業を共にした「盟友」だ。かつて永守氏は若い人材から後継者を選びたいという意向を表明していたこともあるため、小部氏は関氏の開いたポストを担い、ここから厳しさを増してくるとみられる経済状況を二人三脚で乗り切るための人選であるとみられる。

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