時給制の社員が、勤務時間が長い日にばかり有給を取得 なんとかできないのか?社労士・井口克己の労務Q&A(5/5 ページ)

» 2022年09月06日 07時00分 公開
[井口克己ITmedia]
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時間単位の年次有給休暇を取得した時間の賃金の計算方法

 2010年から、年次有給休暇を時間単位で取得することが認められました。この場合の賃金の計算方法を紹介します。

(1)平均賃金の場合

 平均賃金は1日の賃金なので、その日の所定労働時間で除して1時間当たりの平均賃金(以降、「平均賃金の時間単価」)に変換して利用します。1日の所定労働時間が日ごとに異なる場合は、時間単位の年休を取得した日ごとに平均賃金の時間単価を算出する必要があります。

日にち 年次有給休暇の取得状況 賃金の計算方法
9月5日 所定労働時間:6時間
時間年休:2時間
平均賃金の時間単価 4800円 ÷ 6 = 800円
時間年休の賃金 800円 × 2 = 1600円
9月10日 所定労働時間:3時間
時間年休:2時間
平均賃金の時間単価 4800円 ÷ 3 = 1600円
時間年休の賃金 1600円 × 2 = 3200円
  • 時間年休の賃金:1600円+3200円 = 4800円

※時間年休を取得した日ごとに繰り返して総額を算出します。

 給与計算する際は、上記で算出した時間年休の賃金計算に加え、月給制の場合は、月給を月の所定労働時間または月の平均所定労働時間で除して月給の時間単価を算出し時間年休を取得した時間(以下、「年休時間」)を乗じた金額を月給から減じて、年休時間分を加算します。

 日給制の場合も、日給を所定労働時間で除して日給の時間単価を算出し年休時間を乗じた金額を日給から減じて、年休時間分を加算します。

 時給制の場合は、時給に実労時間を乗じた金額に、年休時間分を加算します。

- 所定内の賃金 時間年休の賃金
月給 月給 − (月給の時間単価×年休時間) + その日の平均賃金の時間単価 × 年休時間
+ その日の平均賃金の時間単価 × 年休時間
+ その日の平均賃金の時間単価 × 年休時間
※1日の所定労働時間が異なる場合、時間有給を取得した日ごとに加算する
日給 日給 × 勤務日数
− (日給の時間単価×年休時間)
同上
時給 時給 × 実労時間 同上

(2)通常の計算の場合

 通常の計算の場合は、月給制や日給制は年休を取得した時間を通常勤務したものとして扱い、わざわざ単価を算出する必要はありません。時給制は通常の時給に年休時間を乗じた金額を加算します。

- 所定内の賃金 時間年休の賃金
月給 月給 計算不要
日給 日給 × 勤務日数 計算不要
時給 時給 × 実労時間 時給 × 年休時間

(3)標準報酬日額の場合

 標準報酬日額の場合は、平均賃金の計算方法を標準報酬日額に置き換えたものとなるため、詳細な説明は割愛します。

 時間単位の有給休暇を利用する場合は、通常の賃金以外の方法を選択すると、その日の所定労働時間によって1時間当たりの単価が異なります。そのため給与計算をするには時間年休を取得した時間だけではなく、時間年休を取得した日、その日の所定労働時間を把握する必要があります。

 加えて、平均賃金を選択している場合はその日の所定労働時間が短いほど時間年休の単価が高額になります。この結果、所定労働時間の短い勤務予定の日に1時間だけ年次有給休暇を取得するケースが増えると想定され、新たな問題となることが懸念されます。これらのことから、時間単位の年次有給休暇を採用する時には、平均賃金および標準報酬日額の選択は避けたほうがよいと考えられます。

まとめ

 年次有給休暇を取得した時の賃金を平均賃金に変更すると、年休を取得した日によって賃金が異なるという問題は解決できますが、給与計算にかかる事務が相当に増加することが見込まれます。さらに、時間単位の年次有給休暇という面から見ると、休暇を取得した日によって1時間当たりの単価が異なるという新たな不公平を生むことが懸念されます。これらのことから、筆者は年次有給休暇の賃金を平均賃金とすることは得策ではないと判断します。

著者プロフィール

井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー

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神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。

全てのビジネスパーソンが情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会の実現を目指す。

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