なぜこうなるのか。これも理由はシンプルで、「日本企業の99.7%を占める中小企業で、経営者に賃上げを求める労働者がほとんど消えた」からだ。
大企業でストライキが激減して、経営者と労組が友好的に話し合うようになると、労働組合にはそれほど多くの人手はいらない。当然、大企業の労組は廃れていく。
そうなると、日本経済を大企業が動かしていると信じて疑わないマスコミも、ストライキや労働争議を扱わなくなり、一部の思想的に偏った人たちがのめり込む「政治運動」のようなイメージが広がってしまう。つまり、世間一般の労働者にとって、ストライキやデモに代表される「賃上げ交渉」が縁遠いものになるのだ。
こうなると最も影響を受けるのが、「中小企業」だ。日本の産業構造を見ると、実は大企業はわずか0.3%で99.7%は中小企業が占める。しかも、労働者の7割が働いているのが中小企業なのだ。
一般の労働者がストライキに代表される賃上げ交渉をやらなくなると、中小企業の賃金はガクンと低くなっていく。それはつまり、日本人の7割に「低賃金労働」が固定化されることでもあるので、トヨタ自動車など大企業がどんなに賃上げをしようとも「焼け石に水」だ。実はこれこそがいつまで経っても、日本経済が「失われた30年」から脱することができない原因のひとつでもある。
日本のマスコミや評論家は「賃上げ」という話題になると、大企業の賃上げや春闘などを扱うが、実は日本経済全体ではほとんど意味がない。大企業の賃金が上がれば、中小企業の賃金も上がっていくと主張する人もいるが、0.3%の企業が、99.7%の企業の賃金に影響を及ぼすなんてことは、冷静に考えればあり得ない話なのだ。
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