マーケティングの目的は「顧客に買っていただくこと」ですから、USPはその目的を達成する手段という位置付けでなければなりません。顧客にとって意味のあるUSPだから購入につながるのです。
ここで改めて「ニーズ」と「ウォンツ」と「ベネフィット」についておさらいしておきましょう。マーケティングの現場で多用される「ニーズ」とは「喉が乾いた(乾いた喉を潤したい)」といった「必要性」を指します。一方、「ウォンツ」とは「強い炭酸でシュワッとしたい」「爽快感を感じたい」といった「ニーズをより具現化した欲求や望み」です。ニーズが目的で、ウォンツが手段と言っても良いでしょう。
とはいえ、皆さんも「ウォンツ」という言葉はあまり使いませんよね。概念としてはこれが正しいのですが、実際は「顧客ニーズをもっと深掘りしろ!」「顧客の真のニーズとは」といった使われ方が一般的で、ウォンツもニーズに含めて会話されているのが実情です。
いずれにせよ、USPは顧客のニーズやウォンツを解決する(満たす)ことができる(そしてそれは競合には解決できない/満たせない)自社独自の強みを指します。
このUSPを顧客に伝える際に意識したいのが「RTB」です。RTBとはReason-to-Believeの略で、顧客がそのUSPを「信じるに値する根拠(理由)」を指します。「モンドセレクション金賞受賞」「◯◯グランプリ1位」「◯年連続顧客満足度No.1」などはUSPの伝達力を強化する代表的なRTBといえるでしょう。顧客にUSPを訴求する際、メッセージにさりげなくRTBが組み込まれていると説得力が増しますので、ぜひ意識してみてください。
最後にベネフィットです。ベネフィットは、顧客の「◯◯したい」に対する「◯◯できる」を指します。当たり前の話ですが、ニーズやウォンツがあるからベネフィットがあります。いくら美辞麗句を並べても、ニーズやウォンツがないところで「我が社の製品ベネフィットは〜」と語っても意味はありません。
ベネフィットには以下の3つがあります。
頭痛薬や虫除けスプレーなら「早く効く」「ちゃんと効く」といった機能的ベネフィットが重視され、黒物家電やワインなら「耐久性」「おいしさ」といった機能的ベネフィットに加え「安心感」「充実感」といった情緒的ベネフィットが重視され、スポーツカーや高級時計なら「自分らしさ」「ありたい(なりたい)自分になれる」といった自己実現ベネフィットが重視されます。
USPは常に「顧客の課題を解決する」「顧客の必要性を満たす」ことに向かっている必要がありますが、それは直接的な効能効果、耐久性、軽さ、小ささといった物理的なものだけでなく、気分や感情、情緒や精神を満たす(満たしたい)といった情緒的、自己実現的な必要性や欲求もあることを忘れないでください。
本項ではUSPが曖昧なケースが多いことについて解説してきました。なぜUSPがしっかり定義されている必要があるかと言うと、それこそが本連載のテーマである「筋の良いマーケティング戦略を描く」ことに直結しているからです。
筋の良い戦略は、目標→現状→問題点→課題→施策が論理的に組み立てられている状態を指しますが、そのプロセスで論理を整理していくと、多くの問題点が「顧客にUSPが伝わっていない」ことに起因している事実が浮き彫りになります。
しかしここに注意が必要です。肝心の「USPの定義そのもの」が曖昧だったり間違っていたりすると、問題点(理想と現状のギャップ認識)そのものがズレ、それに引っ張られて解決すべき課題認識がズレ、課題解決のための施策企画もズレていくのです。
その状態で多額の予算を投じた施策を何度展開しようと、真の課題解決にはなりません(売り上げは伸びません)。だから、戦略の前に、自社のUSPを「真に正しく」認識することが重要なのです。
次回は、正しい診断と処方ができていないと、効果測定をする前から「失敗が確定」してしまう「マーケティング効果測定の罠」について解説します。
1973年横浜生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタントなどを経て現職。大手企業300社以上の広告宣伝・PR・マーケティングの支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『売上の地図』(日経BP)、 『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)ほか著書・共著書多数。Twitter:@ikedanoriyuki
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