マーケティング・シンカ論

ボジョレーヌーボ、毎年の話題化に見る「新商品ヒットのカギ」グッドパッチとUXの話をしようか(1/3 ページ)

» 2023年11月16日 08時00分 公開

連載:グッドパッチとUXの話をしようか

「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。

 今年もまた、新しい味を楽しめる日がやってきました。今日、11月の第3木曜日は「ボジョレー・ヌーボー」の解禁日です。毎年つくキャッチコピーは「ここ10年で最高」「並外れて素晴らしい年」「記憶に残る素晴らしい出来栄え」など、不作の年などないのでは? と思わずツッコミを入れたくなってしまいます。

 そもそも、ボジョレーはなぜ他のワインと違って、解禁まで買えないのか、不思議に思ったことはありませんか?

ボジョレーはなぜ他のワインと違って解禁まで買えないのか?(画像:ゲッティイメージズより)

 新商品や季節限定といったラベルに目を引かれ、手に取ったらつい試してみたくなってしまうのが消費者心理というものです。これは、日本人ならではの食文化における歴史が深く関係しています。

 今回の記事では、ボジョレーというワインが特に日本で話題になる理由を、日本人特有の文化的背景とそこから仕立てられた「特別な」ユーザー体験という観点から解説していきます。

ボジョレーはどのように地位を確立したのか?

 「ボジョレー・ヌーボー」とは、フランス・ボジョレー地区でその年に収穫したぶどうを醸造した新酒ワインで、もともと地元民の手軽な日常酒として1800年代ごろから愛されていました。

 その文化が世界中に広がるきっかけとなったのは1951年。それまでフランスでは軍隊用ワインの供給を計画的に行うため、綿密な販売スケジュールで管理されていました。軍制度のさまざまな見直しによりその方針が廃止されると、各生産者がどこよりも早く出荷し売り上げを増やそうと競い合うようになりました。

 その競争がエスカレートした結果、ワインとしての品質が保たれないことが問題に。それを防ぐため、特定の解禁日が制定されました。

 その後、近隣の国であるスイス、ベルギー、英国へと文化が浸透し、1980年代には米国、カナダ、ドイツ、オランダ、オーストラリアへと次々に広まっていきました。日本に上陸したのは85年で、バブル景気真っ只中で起こった高級ワインブームに乗りましたが、バブル崩壊とともに終焉します。しかし90年代後半から再度起こった赤ワインブームによりメディアでも解禁日が取り上げられ、その人気を確実なものにしていきます。

 また、2009年には消費不況や製造・輸送コスト軽減の観点から、ペットボトル型の商品が相次いで投入され、1000円を切る激安ボジョレーが登場し世間を驚かせました。スーパーマーケットやコンビニ、ディスカウントストアでも販売されるようになり、ボジョレーを目にする機会が次々に増えていきました。

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