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『信長の野望』生みの親 シブサワ・コウの人材登用と組織論(2/3 ページ)

» 2023年12月19日 08時00分 公開

ゲーム内のAIの進化はどう変わってきている?

――まさしくシミュレーションゲームはAIの進化の歴史でもあると思います。今年に入って生成AIが注目されていますが、ゲーム内のAIの進化はどのように変わってきているのでしょうか。

 シミュレーションゲームでは、自分とそのコンピュータが演じる武将と対戦する形になります。そうすると必然的にコンピュータが演じている武将をアルゴリズムで表現することになります。ここをベーシックの時代からずっと続けてきました。

 武将の振る舞いを演出するためには「IF THEN ELSE」という構文を使うのですが、これを何十行何百行と重ねていって実現していきました。今ではAIによってその場その場の振る舞いだけではない演出が可能になりました。武将がまず長期的な視点を持ち、その長期の目標を実現するために中期の目標を持つ。そしてそれを実現するための短期の目標というように、層を分けて武将の動きを再現できるようになっています。

――どんどん思考のルーティンが人間に近いものになっているんですね。

 戦いの場面でもそういった新しいAIの使い方をしていて、感情であるとか、その人の武将が持っている特質を表現してリアリティーを持たせています。かつては「IF THEN ELSE」によって武将を表現していたのですが、今はAIがもっと賢くなることで、ゲームとしてのリアリティーを増しています。AIとシミュレーションゲームは非常に相性が良いですし、今後より面白くなっていく時代になると思います。

――生成AIは何かになりきって答えるのが得意ですから、もしこれがゲームで実装されたらすごいことになるのではないかと思います。

 そうですね、ただ生成AIには少しまだ著作権の問題があると思います。この部分がまだクリアになっていないので、この問題を解決しながら、導入していきたいと思っています。

――個人の利用はどんどん進んでいますが、ゲームとして商業利用する形だとまだ課題は多そうですね。

 個人ベースで、趣味で使う場合には全く問題ないと思いますが、企業が商品の中に、ゲームの中に実際に組み入れるとなると、やはり著作権の問題を解決する必要があります。ただ、社内のデータだけ使って生成AIを活用する分には全然問題ありませんから、そういった形での利用を今は検討しています。

――既にシブサワ・コウさんはゲーム開発においてクオリティーチェックをする立場で、ゲーム自体はスタッフが作り上げるような形になっていると思います。コーエーテクモゲームスでは2016年から「シブサワ・コウ」をブランドとして位置付けています。どういった狙いがあるのでしょうか。

 これはファッションの「イヴ・サンローラン」や「グッチ」などと全く同じですね。元は創業デザイナーの名前でしたが、今ではブランド名になっています。自分も「シブサワ・コウ」名義で40年間、最高の歴史ゲームを作り続けてきた自負があり、その信頼と実績をこれからも維持していってほしい気持ちでブランドにしました。

――託される後進にとっても、良いプレッシャーになりそうですね。

 歴史のゲームとしては最高峰のものをずっと作り続けてほしいし、お客さまも「シブサワ・コウ」ブランドに対する期待感や、今までの実績がありますから、それを上回る歴史ゲームを作り続けていって欲しい気持ちでいます。

――「シブサワ・コウ」ブランドは今後どう変わっていってほしいですか。

 どんどん発展していって欲しいですね。日本の歴史だけではなく、各国の歴史の中でゲームのテーマになり得るものはどんどん探していってほしいです。違うゲームジャンルにも果敢に取り組んで、その時代の技術の進化をうまく取り入れながら、新しいデジタルエンターテインメントを実現させてほしいと思います。

――4月に国内グループ各社で大卒新入社員の初任給を30万5000円に引き上げています。

 そうですね。優秀な新入社員の人にぜひとも入社し、活躍してほしい気持ちがあります。

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