「歴史シミュレーションゲーム」というゲームジャンルを生み出し、数々のヒット作を手掛けてきたコーエーテクモ。2022年度の連結決算では売上784億円と過去最高となり、4月には新入社員の給与を30万5000円と業界最高水準に引き上げた。
コーエーテクモゲームスの前身「光栄」は「信長の野望」シリーズの生みの親であるシブサワ・コウこと、襟川陽一社長の家業だった栃木県足利市にある染料工業薬品問屋に端を発する。そこからゲームメーカーに業種を転換し、以後40年にわたって成長を続けてきた。以来、シブサワ・コウは襟川社長のペンネームとして「三國志」シリーズも含めた歴史シミュレーションゲームのプロデューサー名として名を馳せてきた。
その「シブサワ・コウ」は、16年に4月よりコーエーテクモゲームスのいちブランド名として展開している。創業者である襟川陽一社長の名義から、ブランド名として企業の共有財産に昇華した形だ。
創業者としてのシブサワ・コウは、コーエーテクモの未来をどう見ているのか。どのように40年間、事業を拡大させてきたのか。人材登用と組織論について、コーエーテクモホールディングスの襟川陽一社長に聞いた。
――1983年の『信長の野望』の大ヒット以降、次第にゲーム開発の規模も大きくなって社員や開発スタッフの数も増えていったと思います。事業拡大していく上で、社員の採用や育成が欠かせなかったと思いますが、何を重視していたのでしょうか。
新入社員の採用の時には、まずは「ゲームが好きかどうか」が絶対条件です。「良いゲームを作ろう」という大切な動機になる部分が入社時点で育ってないといけませんから。何となく当社に入社したいとか、何となくプログラミングがしたいとかではだめですね。ですから特に開発スタッフにおいては、ゲームが大好きで、かつさまざまなゲームをプレイして経験している人をなるべく採用しています。
――最初は一人で手掛けていたゲーム開発も、事業やゲーム機の発展に伴い開発人数が増えていったと思います。開発チームを作る時は何を大事にしていますか。
ゲーム作りは1人でするものではないので、チームワークがとても大事です。『信長の野望 出陣』(以下『出陣』)でも開発スタッフの数は100人に上ります。チームワークの大切さは入社した時から社員も理解していると思うのですが、チーム作りの上で私はプロデューサーを非常に重要視しています。
――プロデューサーのどんなところを評価していますか。
ゲーム開発におけるプロデューサーの最重要事項は、品質管理と予算と納期をきっちり守り、収益性と成長性を上げていくことです。ここをプロジェクトの目標にしていますので、この収益性と成長性を実現するプロジェクトを推進していける能力が非常に大切です。
他には将来を見通す先見性ですね。これも非常に重要だと思っています。ゲーム開発は不測の事態の連続です。こうした中でも予算と品質と納期のバランスを取りながら、プロジェクトチームを運営していくプロデューサーが、私は一番重要な役割だと思っています。
――シブサワ・コウさんとしてこれまで記憶に残る「不測の事態」はありますか。
2000年3月にプレイステーション2が発売されたのですが、この新ハードの同時発売タイトルとして『決戦』というゲームを出しました。この時のゲーム開発が大変だったのを覚えています。今考えると大冒険でしたね。
――ソフトだけでなく、ハードの要件も定まっていない中でのゲーム開発は大変そうです。
ソフトの開発途中でハードの設計変更もいろいろありました。とにかく苦労させられたのが、ソフトのバグなのか、それともハード上の問題なのかということ。どちらの理由でゲームが動かないのか分からないんですね。この原因の究明に非常に苦労したのを覚えています。
――そういった時はどのようにして乗り越えるのでしょうか。
とにかくやり切るしかないですね。やっているうちに、どこに原因があるかがだんだん分かってくるんです。『決戦』の時は、とにかくバグを取っていくうちに、データをDVDの外側に置くか内側に置くかでディスクの読み取り速度が違い、それによってバグになることが初めて分かりました。ハードとソフトの複合バグみたいなものでした。
そのバグを放置しておくと、ゲームが途中で止まってしまう症状になってしまうので、何が何でも絶対に究明しないといけないものでした。私自身が一ゲームファンで、他社のゲームもたくさんプレイしています。そういう時に途中で止まったりすると嫌ですから、そういうことをなくすために全力を挙げました。今となってはいい思い出です。ちなみにその時現場で苦労したのが、コーエーテクモゲームス社長の鯉沼久史です。
――「信長の野望」シリーズをはじめ、ゲームの続編を出す時には、どのように意思決定していくのでしょうか。
社員は高校や大学で『信長の野望』や『三國志』をプレイして当社に入ってきますから、皆さん自分なりの『信長の野望』や『三國志』を作りたくて入ってくるんですね。ですから『信長の野望』の最新作の企画を私が提案しなくても、皆さんから「今度はこういうことをしたい」といったアイデアが出てきます。面白さを感じ取る切り口が違うので、そういった意見をプロジェクトチームでいろいろ出し合って次回作のコンセプトを決めていきます。
――「信長の野望」シリーズをはじめとする新作のコンセプトは、シブサワ・コウさんがトップダウンで決めているものではなく、ボトムアップによって大部分が決まっているのですね。
そうですね。例えば今作の『出陣』のように、今度の『信長の野望』はウォーキングゲームで出したいといったような提案が現場から上がってくると、事前のミーティングを何回かやって決めていきます。コンセプト決めに関しては、基本的に私は新しいアイデアに大賛成で、積極的に応援する立場にいます。
――「信長の野望」シリーズをはじめ、新作のコンセプトを決める上で大事にしている考え方はありますか。
社内だけでなく、お客さまからのご要望も大事にしていますし、あとはその時代その時代の最新の技術を導入して、新しい『信長の野望』を実現できるかどうかは重視しています。例えばゲーム内の描写が2Dから3Dになったタイミングでは、3Dで実際に馬に乗った武将を表現できるかどうかなどを見ました。
また、武将の思考ルーティンにあたるAIは、最先端のものを導入するようにしています。過去作では戦い合う武将のAIに力を入れていたのですが、『信長の野望 新生』では配下の武将の動きにもAIを導入し、君臣一体で全国統一を目指す面白さを実現しています。
ゲーム開発で大事にしているもの。それは私自身が開発途中のゲームを遊んでおり、いちゲームプレイヤーとして改善すべきだと思った点を指摘していることです。歴史シミュレーションゲームにおいては、AIで武将がおかしな動き方をするのは我慢できないですね。また、中盤から終盤にかけての中だるみ感もよく改善の指示をしています。このあたりは、シリーズ作品を重ねているうちに大分良くなってきましたね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング